口にする易しさ


まさか、イザークとディアッカが護衛監視になるとは思ってもみなかったが、アスランは嬉しかった。
しばらくぶりにあった元恋人と戦友は元気そうで安心する。

ニコル…レノア…パトリック…ミゲル…ラスティ…
全員の墓を回るが、そのどれも中身はからっぽだ。
そんなことは、三人は既に知っている。
ただの形だけのモノ…

郊外にある為に、随分と時間がかかってしまった。
昼前にホテルを出た筈なのに、今は夕方だ。

夕焼けが美しい、例え人工のモノであったとしても。
アスランがぼぉっとたたずんでいると、イザークはアスランに、ザフトに戻れと言ってきた。
そして、オーブで何をしているんだ…と。
アスランの脳裏でシンとイザークが被る。
アスランは何を言うことも出来ず、黙っていた。


「イザーク、ホテルに着いてから時間はあるか?」

帰りの車内。ディアッカの運転する車は滑るように車道を走る。
遠くに光々と光る街の明かりが見える。
日は沈み、冷たくなった風がアスランの髪をなぶっていた。

「あぁ、誰かさんの所為で予定はガラ空きだ」

刺々しさを含んだイザークの言葉に失笑し、そうかと呟く。
二人の間には、これ以上の会話はいらなかった。
ディアッカが、俺は呼んでくれねーの?と軽く笑いながら言えば、イザークはぴしゃりと言い返した。

「貴様はいいんだよ!貴様は!」

「はいはい…」

諦めたように呟くディアッカに、イザークはふんと鼻を鳴らし、アスランはくすくすと後部座席から前の二人を笑っていた。


「じゃ、俺はこれで。元気でな、アスラン」

「今日は付き合わせてすまなかった。ディアッカも元気で…」

ホテルの前でディアッカと別れ、イザークと共に部屋に入る。
まるで自分の部屋のように椅子にどかっと座ったイザークに笑う。

「貴様…明るくなったか?」

イザークは不思議そうにアスランを見、アスランの表情はそのイザークの言葉によって悲しそうな笑みに変わった。

「お前の前だけだ…イザーク」

窓の傍から離れ、イザークの前に立つ。
イザークはアスランの手をとり、自分の顔へと近付けた。
目を伏せ、愛おしそうに頬を寄せる。
イザークの熱が、指先からアスランへと伝わっていく。

「……オーブはプラントよりかは暮らしやすいのか?」

イザークの問い掛けに、アスランは眉を寄せる。
どっちもどっちだと思った。
プラントではあのザラの息子だと後ろ指を指され、軽蔑される反面、英雄だと持ち上げられる。
オーブでは亡命したこともあり、肩身の狭い思いをしている。
戦争から逃げ、プラントから逃げ、ザフトから逃げ…またオーブからも逃げようと言うのか、ザフトに戻ることで。

そこまで考えてから思考を止める。
イザークが不審そうな目で、知らずのうちに、沈んだ顔になっていたアスランを見ていた。

「どっちもどっちだな」

軽く笑いながら吐き捨てるように言えば、イザークが口を開いた。

「俺の傍にいればいい」

真直ぐに射ぬいてくるアイスブルーの瞳から目を逸らし、困ったように笑う。
イザークの傍に居たかった。
ずっと、片時も離れずに。
だが…
おそらくザフトに戻ってもそうはならないだろう。
アスランはなんとなくそう思った。
自分はミネルバにいくことになるのではないのかと。

「俺はまだ貴様をぁ…愛している…」

「イザーク…」

アスランが驚いて視線を戻せば、イザークはアスランを見てはいたものの、頬はすこし赤かった。
今日、ずっと言って欲しかった言葉。
伝えたかった言葉。

「俺もだ…」

アスランが亡命した時、二人は関係に終止符をうった。
お互いの道を歩もうと決意した。
結局、互いに互いを忘れることも出来ず、アスランは淋しさを、イザークは焦燥感を抱いていた。

「アスラン…」

イザークが立ち上がる。
それだけで、互いの唇まであと数p。
イザークがアスランの手を引き、アスランはイザークに抵抗せず、しばらく振りのキスをした。
触れるだけで離れた唇。
アスランの頬は赤い。

「……ザフトに戻っても…俺はミネルバにいくと思う」

「あぁ…」

「そんな…予感がするんだ……」

アスランの頬を、温かい涙が伝った。
久しぶりの涙だった。


出会えた喜びと
別れる悲しみと

同じ場所にいられない
――悲しみと

抱き締めて

その手を二度と
離さないで

貴方の中に閉じ込めて
籠の中に
入れてくれてもいい

どうか…




END




後書き


突然書きたくなりました…続きはご要望があれば書かせていただきます!
裏になると思います。


まな
05.08.25