初めに


10000Hitありがとうございます!
サイト開設より、二ヵ月も経っておりませんのに…
まさかいくとも思っておらず、10000を示すカウンターを見たときに、手が震えました。
心より申し上げます。
ありがとうございます(深礼)

このお話は皆様に捧げます。

まな
05.10.09




一つの傘に入ろう


外に出た途端に、真っ白な空を見つけ、イザークははぁと溜め息をつく。
午後になれば降ってくるかもしれないと考え、一端家の中へと戻り、空と同じくらい白い傘を持ち出した。

「慣れんな、いつまで経っても……」

この地球の、気紛れな気候には。
予想では、午前40%午後30%で、午後から晴れると言っていたが、イザークにそれを信じる気など全くない。
今まで幾度も、あの天気予報とかいうやつは外れたことがある。


イザークが地球に暮らし始めてから、半月が経っていた。
ヤキン戦からは一年。
イザークは白服を着、信頼の置ける部下達と共に、カーペンタリアやジブラルタルなどの基地を転々としながら、戦後復興に努めていた。
現地住民達が活気を取り戻すのは早い。
当然暇が増える。
すぐに駆け付けられる場所ならば、何処にいてもいいという、なんともいい加減な指令が出て早一月。
イザークはオーブにいた。


愛車の運転席の扉を開け、助手席に傘を放り込む。
オート車が好きな辺りにも、イザークの民俗学好きが伺えると、以前アスランが言っていたことがある。
そう言うアスランも、マニュアル車なのだが。
知らずイザークは笑みを零し、鍵を回してエンジンをかけ、ギアを引いてアクセルを踏んだ。
心地よいエンジン音を聞きながらイザークが向かった場所は、アスラン住んでいるのマンション。

マンションは、アスハに手配されたもの。
何が仕掛けてあるかわかったものではないと、イザークはアスランに言ったことがあったが、アスランは呑気に言った。

「カガリはそんなことしない」

と。イザークが頭を抱えたのは言うまでもない。


適当に開いているスペースへ車を入れ、イザークは傘を掴んで車を下りた。
アスランが住むのは最高層。
周りに住む人達の騒音が、一番聞こえないのが理由らしい。
高層ビル張りのエレベーターに乗り込み、その階のボタンを押す。
壁に背を預けたイザークを、妙な浮遊感を襲ったのも一瞬。
すぐにまた元に戻り、しばらくすれば、軽やかな音をたててすらりと扉が開いた。
エレベーターから出て、イザークが歩みを進めたのは、この階の一番奥の部屋。
何故こんなにも、人と接することを嫌がるのか。
インターフォンを押すこともなく、このマンションに入る時にも使ったカードキーを扉に差し込んだ。
カチャンと鍵が開いた音がし、イザークは扉を開ける。
揃えられた一足の靴を見やり、備え付けの傘立てへと傘を追いやって、自分の靴も脱ぎ揃えた。
家主に声を掛けることもなく、ずかずかと入り込む。
長くもないフローリングの廊下の、突き当たりの扉を開けばリビング。
イザークがその扉を開き、中へ入ると、アスランはソファに寝転がり、寝息をたてていた。
時間は、午前十時。
どうせ夜中までマイクロユニットでも弄っていたのだろうと考え、イザークは微かに息を零してソファへ近づく。
膝を折り、横向きに蹲るように眠っているアスランの頭側に、人一人分入りそうな隙間を見付け、そこへと腰を下ろした。
まだあどけなさの残る寝顔に、イザークの口元が弛む。
闇色の、見た目とは違いさらりと流れる柔らかな髪に指を絡ませると、アスランは少し身じろいだ。
起こしてしまったかと心配になるイザークを余所に、アスランは未だすやすやと規則正しい息を零していた。
それにまた口元を弛ませ、イザークはアスランの髪を撫でつける。
優しいその手つきは、普段のイザークを思えば珍しいものだった。


しばらくそんなことをしていたのだが、イザークもいい加減飽きてきたらしい。
ころんとアスランの身体を転がして仰向けにさせ、うすく開いて空気を取り込む唇に吸いついた。

「ん……っ」

微かに喉を鳴らしたアスランに嬉しくなり、イザークは更に深く口付ける。
必死に酸素を取り込もうと開くその隙間に自ら舌を入れ、無抵抗なのをいいことに、口腔内を乱していった。
眠っていても、必死に唾液を飲み込むアスランの口端から唾液が溢れる。

「ッ……ん…ふ…?」

アスランの目元がぴくりと動いたのを感じ、イザークは顔を離した。
濡れた自分の唇を舌で拭い、アスランの柔らかな唇を指でなぞる。
すると、はっとしたように目蓋が開かれ、先程のキスで少し潤んだ双眸が顔を覗かせた。

「お目覚めか?」

「イザ…!?な…ッ」

目を覚ませば、眼前にあったイザークの顔。
アスランが驚くのもわかるが、イザークは、しどろもどろになり、上手く言葉を紡げていないアスランを見て、楽しげに笑っていた。
未だ唖然としたままイザークを見上げるアスランの頬に触れながらイザークは言う。

「疲れているようだな…今日はずっと家にいるか?」

その問い掛けに数回瞬きし、アスランはばっと身体を起こした。
その背中にイザークは手を這わし、そのまま腹部を両手で抱き抱えて引き寄せる。
ビクリと身体を震わせるだけで、何も言わないアスランの耳元に口を寄せた。

「なぁ……?」

「ッ……」

いつもは男性にしては高めのイザークの声。
わざと低くして囁かれればアスランの背にぞくりと何かが走った。
疲れているのは本当のこと。
イザークと二人で過ごせるならばどこでもいいと思い、アスランはこくんと首を振った。
そのアスランの様子に、イザークは満足気に笑う。

「…あ、そうだイザーク。面白い本をトダカさんから借りてきたんだ。読まないか?」

ムードも何もぶち壊しのアスランに、思わず溜め息が洩れたが、その本は読みたいとイザークは思った。
トダカは博識で、様々なジャンルの本を持っており、よく珍しい本をアスランやイザークに貸してくれていたからだ。

「……読む」

短くそう告げると、アスランは弛められたイザークの腕からするりと抜け出て、嬉しそうに自室に向かった。

そう時間もかからずに、アスランは三冊の本を持ってリビングに戻ってきた。
一冊は、ギリシア神話、もう一冊は、マヤ文明はなぜ滅んだか、最後は機械系の、見るからに分厚い本を三冊。
神話の本と、文明の本をイザークに手渡し、アスランはイザークの隣へと腰を下ろした。

「また違うタイプの…」

ギリシア神話などの神話系書物は、数多く存在する。
著者によって書いているものが違うものなんかもあり、今回トダカが貸してくれたものも、以前イザークが読ませてもらったものと異なっていた。
民俗学とはどこか違うような気がするが、興味はあるのでイザークは気に留めない。

「もう読んでるし…」

散策しながら本の表紙を見ていたイザークを余所に、アスランは黙々と読み始めていた。
口元には、嬉しそうな笑みを浮かべて。

「ん……何か言ったか?」

「いや…何でもない」

ふっと笑みを浮かべたイザークを不審げに見て、アスランはまた本に視線を落とした。
ソファに足を上げて読んでいる姿は可愛らしい。
とりあえず難しそうなマヤ文明がどうのという本を手に取り、イザークも読書を始めた。


紙の擦れる音だけが部屋に響く中、外ではイザークの予想通り、雨がぱらぱらという音をたてていた。




END




後書き


早くも10000Hit…ありがとうございます。
俄かには信じられませんが…こんなにも早く越えるとは思っておりませんでした。
そして、度重なるアンケートへのご協力、感謝致します。
その全てを乗せて、この話を書きました。

皆様、これからの電気工事屋を生暖かい眼差しで見ていてやって下さいませ。(礼)


まな
05.10.09


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