「なぁ……イザーク」 少し引き気味で、褐色の幼なじみは俺を見下ろしていた。 ちなみに今は、ミーティングルームでやっとのことで作戦会議を終え、夕食をとろうと食堂へ向かう廊下の途中だ。 「何だ?ディアッカ」 抑揚のない声で問えば、ディアッカは俺の目から目線を外し、自分の背中で、まるで怯える小動物のような緑髪の少年に目をやった。 …何だ。俺にどうにかしろと言うのか? 無理に決まってるだろ。 歩きながら、訝しげな顔を二人に向ける。 ニコルはある意味器用だな。 カニっぽい歩き方で、俺たちの歩調に連いてきている。 すごく変だが。 ディアッカがまたこちらを見た。 「そいつ、どうしたんだ?」 静かな夜 そいつ――…と言いながらディアッカが指差したのは、俺の手に自分の手を絡め、少し身を乗り出すようにことの成り行きを見守っていた……先日、晴れて俺の恋人になった奴、アスランだ。 「…何だよ」 「アスランがどうかしたか?」 アスランは少しご機嫌がよろしくない。 まあ、拗ねながら『何だよ…』なんて言っているのも可愛いが…… 「アスランが…変です」 あぁ!?と言いそうになるのを止めて、どこがだと聞き返す。 お前の方が変だ… まぁ、わからんでもないぞ、ニコル。 実際に付き合い始めてみれば、アスランは異様に人懐っこかった。 それに驚いたのはお前等にキスするところを見られた辺りだけだが。 「アスランは…僕の尊敬するアスランは……」 ふるふるとニコルの身体が震えている。 「っ……」 「あ、おい!ニコル!!」 口をぱくぱくと金魚のように動かしたあと、ニコルは居たたまれなくなったのか、走ってどこかへ行ってしまった。 ディアッカはあ〜ぁなどと言っているが…貴様、俺だけ置いて行くなよとか思っているんじゃないだろうな。 ……いない方がいいが 「イザーク…」 アスランは不満そうに俺を見ている。 あぁ…かまってやれなくてすまなかった……どっかのバカ者共の所為で… 「腹は減っているか?」 「すいた。…早く行かないか?」 「わかった」 二人だけの世界。 甘い空気の漂い始めたその場で、ディアッカは砂を吐いていた。 そんなことがあってから数週間。 夕食前――… 俺はあんのお偉い変態長に呼ばれてしまい、アスランはディアッカやニコルと共に、先に食堂へと行っていた。 まあ、MSのことで呼ばれていたのだから仕方がないが… 「アスラン」 「あっ、イザーク!」 背後から声をかけた途端に立ち上がり、ぎゅっと抱きついてくる。 可愛すぎるぞアスラン!! 自ら抱きついてきたというのに、耳まで赤いのが見て取れる。 前はこのようなことを目の前ですれば狂乱状態に陥っていたニコルは、慣れたように夕食を食べ続けているし、ディアッカの定位置も今では俺の隣からニコルの隣へと変わっていた。 ディアッカも、軽く俺を見上げた後、またトレイへと視線を移す。 別に、冷めている訳でも、諦めを含んでいる訳でもないぞ? …あぁお前か、ぐらいなもんだ。 だが、周りは未だに慣れていないようだ。 俺が優しくアスランの髪を撫でていれば、好奇の目が向けられる。 そりゃあなぁ。 ただでさえ赤服で目立ってんだから。 それに、赤服は仲が悪いというのが艦内に広まってしたから余計か。 ……失礼にも程がある 「イザーク。飯食わないのか?」 いつのまに身体を離していたのか、トリップしていた俺を不思議そうに眺めているアスラン。 「あ、あぁ、ペコペコだ。食う」 そう言うと、パッとアスランの顔に笑顔が浮かぶ。 何を思ったか、俺から離れ、取出し口へと向かって行った。 テーブルの上に、すでにアスランの分はある。 「はい!」 少年らしい…というか、少し幼稚さを垣間見せる微笑みが俺に向けられる。 抱き締めたくとも、アスランが俺の為に持ってきてくれたトレイの所為でそれは叶わない。 「ありがとう。すまないな…アスラン」 「イザークッ」 トレイを受け取り、机の上に置きながら額に軽く口付けると、アスランは片手を額に当てて顔を赤くした。 「アスラ〜ン、早く食べないと冷めちゃいますよ?」 君達は暑すぎますけど、と勝手に付け加えてみる。 「そ、そうだな」 慌てて座ったアスランの隣に薄く笑いながら腰掛け、そろって食べ始める。 おもむろに、ディアッカが口を開いた。 「お前らさぁ…もう少し場をわきまえたらどうだ?」 「「何故」」 アスランと俺の声が被り、ディアッカはぐっと息をつめる。 アスランも俺も、示し合わせたかのように無表情だった。 「いや…だってよ。周りの目が…」 「そんなもの、俺達には関係ない」 きっぱりと言い切った俺に、アスランはこくこくと頷き、ニコルは無反応、ディアッカは呆れた顔をした。 俺は今まで何度もこの幼なじみに呆れた顔をされてきたが、ここまでのは初めてだ。 なんか、まぬけだ。 「失礼な顔だな」 いや、な?本当にそう思ったんだよ。 そんなすごいショックを受けたような顔をするな。 「……もう何も言わねぇよ」 ぼそっと呟いたディアッカを放って、俺はアスランに向き直る。 見ると、アスランもこちらを見ていて、突然目が合ったのが恥ずかしかったのか、真っ白な頬に朱が走った。 その様子にくすりと笑みを零し、さして遠くない距離、すっと顔を寄せて唇を合わせる。 「ッ……」 触れるだけで離したそれは、今晩のおかずの酢豚の味がした。 「…美味い」 気恥ずかしそうに頬を赤らめるアスランにそう言えば、アスランも笑う。 綺麗と言えるその笑みが、俺だけに向けられていることに優越感を感じ、しばし視線を絡め合った。 「もう、好きにして下さい…僕は部屋に戻ります」 ガタリと音を響かせてニコルは席を立ち、それに俺もとディアッカが続く。 あぁ、帰れ帰れ。そっちこそ好きにしろ。 というオーラを出しながら二人を見送り、俺たちはゆっくりと夕食を取った。 「なぁ、イザーク…」 寡黙なアスランが自分から話し始めることは珍しく、俺は本から視線を上げ、趣味の機械いじりをしていた筈のアスランを見た。 アスランの部屋に未講読の本を持ち込み、ベッドに座り込んで読むのは俺の夜の日課になっている。 その間アスランも、微かに音をたてながらマイクロユニットを造っていた。 そんな時の静寂はたまらなく心地良い。 「どうした…?アスラン」 何時の間にか目の前に立っていたアスランに、手元の本を取られ、サイドテーブルに置かれてしまった。 そういう時のこいつは、かまって欲しくてたまらない時。 ふっとアスランに微笑みかけて手を伸ばせば、膝を折ってベッドに乗り上げ、ギュッとしがみついてくる。 俺の肩に顔を埋めて、俺の背中に手を回し、軍服を握りしめていた。 愛おしくて仕方がない。 「イザーク…」 甘いアスランの声が、吐き出された吐息が、俺の耳を擽る。 誘うようなそれに合わせて、脇腹をそっと撫でた。 すると、すぐに不満の声が聞こえてくる。 くすぐったいと言って身を捩るが、多少笑い声を含んだそれに更に虐めたくなり、今度は脇に故意に触れ、こそばすように手を動かした。 「や、やめろイザー…ぁははッ」 声を上げて笑うのを見たのは初めてで、可愛らしい。 目尻に涙を溜めて暴れるアスランを押さえるようにこそばし続ける。 じゃれあっていると言えるものだったが、アスランが本格的に嫌がる前にやめた。 「はぁ、はぁ…は…」 「楽しかったか?」 俺がアスランを押し倒しているような格好で、俺は笑いすぎて息を乱したアスランに聞く。 だが、アスランはきっと俺を睨み上げた。 「んな訳ないだろ!」 口元、笑ってるぞ。 微妙に。 その様が可笑しく、俺は笑いを堪えながらアスランの上から退き、ごろんと身体を横たえた。 両腕の間から見ていた顔は、今や隣に並んでいて。 すっと手を伸ばし、アスランを抱き寄せた。 「悪かった。拗ねるなよ」 自分が笑っていたことと、俺が笑っていたことが分かったようで、アスランはむすっと俺を見ていた。 そんな様子にすら笑ってしまいそうになる。 可愛い、と言ってしまいたかったが、そう言えば更に機嫌が悪くなるのは必至。 寝転がったまま顔を近付け、軽いキスを施した。 「ん…ッ」 微かに声を洩らしたアスランと、また更に口付けを交わす。 何度も角度を変え、強さを変えて…。 ふっと顔を離し、視線を絡め、二人して気恥ずかしげに笑った。 今日も ザフトは平和だ。 END |
後書き ギャグのつもりで書いていましたのに、途中から甘々一直線です。 大分、甘いのが書けるようになってきました!多分 どうでしょうか…? まだまだ修業がたりませんねっ 頑張ります!! …裏に持って行こうかとも思ったのですが(ぼそっ/こら) では、ここまで読んで下さりありがとうございました(礼) まな 05.10.22 |