どちらが捕われているのかなんて…


わかりはしない





降り注ぐ雨ぬかるんだ土


「あいつに言われたから、ザフトに戻ったの?」

アークエンジェルとミネルバの、宇宙での戦闘。
デュランダル元プラント最高評議会議長、グラディス元ミネルバ艦長、そして、元MSパイロットレイ・ザ・バレルの死という、なんとも皮肉な最後で、舞台は終焉を迎えた。
デェステニー、レジェンドなどと激しい戦闘を繰り返し、エターナルへと帰還したキラとアスラン。
まだ十代でありながら、二人の活躍は目覚ましかった。
だが、誰もその雄姿を讃える者はなく、よくぞ無事でと声を掛ける者が大半だ。
ヤキンドゥーエを生き抜いてきた者達にのみわかる、称賛の証。
二人は口を開くことさえも億劫で、早々と軍服に着替え、部屋へと戻っていた。
疲れ切った身体を癒す為、アスランはベッドへと直行しようとした…のだが、それはキラの手によって唐突に阻まれてしまう。
掴まれた腕に籠もった力の強さに、アスランは不思議そうにキラを見た。

「キラ…?」

「答えなよ」

明らかに今までと違うキラの態度に、アスランは困惑する。
問い詰められたこともなかったのに。
瞳に憎しみを映したようなその表情に、アスランの背筋は凍り付いた。
キラが何を聞いているのかもわからずに、ダンッと背を壁に叩き付けられ、疲労した身体は、みしりと音がしたのではないかと錯覚してしまう程に痛んだ。
叩きつけられる際にキラが掴んだ肩が、ギシリと音をたてる。
アスランが痛みに顔を歪ませれば、キラは嬉しそうに笑った。

「ねぇ、アスラン。そうなんでしょ?あいつに言われたから、ザフトに戻ったんだよね?」

「っ…………」

咄嗟のことで崩れてしまった膝を、立て直すことも出来ない。
その所為で見下ろす形になっている瞳を覗き込み、キラは黙ったままのアスランに畳み掛ける。

「僕に何も言わずにザフトに戻って、また僕と戦って負けて。弱いくせに一人で決めて、僕なしでなんとかしようとするから失敗するんだよ」

君は僕の言うことだけ聞いていればいいんだ。
耳元で低く囁くキラに、アスランは否定するように頭を振った。
その様子が気に食わなかったのか、キラの双眸から光が消える。
口元に嘲るような歪んだ笑みを浮かべ、自分を見させようとアスランの顎をぐっと掴んだ。
びくりとアスランの身体が震え、逃げるようにぎゅっと瞳が閉じられる。
翡翠にキラが映ることはなく、さらにキラを苛立たせた。

「それとも、あいつの言うことなら聞けるっていうの?ねぇ」

「ゃめ…キラ…ッ」

アスランの両手首を掴み、壁に押しつけ、その両足の間に膝を割り入れる。
危機を感じ、アスランはキラを振り払おうとするがそれも適わない。
力の入らない身体では、無理だった。
目蓋を跳ね上げ、アスランはキラを見る。
縋るような、何をされるのかわからない恐怖を映したような双眸に、キラは掻き立てられた。
それぞれ抑えつけていた両手を一纏めにし、空いた手でするりと頬を撫でる。
この柔く白い肌に爪をたて、あれが赤く滴る様を想像し、ぞくりとキラの背筋を何かが走った。
残忍な色を宿したキラの瞳に、アスランの抵抗が失せる。
逆らってはいけないと、感じた。

「今さっきもあんなに親しげに話してさ…。ねぇ、どうなの?アスラン。あいつに言われたから、戻ったの?」

「………」

恐る恐る、だが確かに、アスランは首を振った。


縦に。


視線はキラの紫の瞳に注がれているが、すぐにでも逸らされてしまいそうな程に、翡翠は揺れている。
アスランのそれを見て、やっぱりとキラは思ったが、それでも苛立つのを抑えられなかった。
拘束したまま、小さく震えるアスランの唇に、噛み付くようなキスをする。
アスランは懸命に顔を逸らそうとするのだが、キラの手がまたも顎を掴んだために、それは阻まれてしまった。

「んっ、ん、んん…!!」

お互い瞳を開けたまま、ムードも何もない。
無理矢理だったのだから、それも当たり前だ。
抵抗を示すようにアスランは喉を鳴らす。
キラは手首を纏めている手に力を籠め、アスランが空気を求めて無意識に薄く開けた隙間から舌を侵入させた。
突然の侵入者に驚き、アスランは口内を乱すそれに噛み付こうとする。
たがキラは、アスランがそうするのがわかっていたのだろう。
両脚の間にある自分の膝を、アスラン自身にあたるように持ち上げた。
びくっと身体が震え、おとなしくなったアスランに眼で微笑み掛け、キラはそのまま膝で自身に刺激を与え始める。

「ひ、んぅ…!!ぁ、あ、はぁ…ッ、キ…んんッ!」

びくびくとアスランは背を反らせるが、空気を求めて開いた唇すらもキラに奪われ、何も考えられなくなっていた。

キラがようやくアスランの唇を解放し、キラとアスランの間にいやらしく銀の糸が伝う。
濡れた唇から押し上げられる嬌声は相変わらずで、その扇状的な眺めにキラは笑った。
口端から顎にかけて伝う唾液を拭い、快感に震えるしか出来ないアスランの双眸を覗き込む。

「んぁ、キラ…ぁあっ!も、やめ…ぁッ……いゃ、だッ」

「嫌なわけないでしょ?アスランのここ、いやらしい音がし始めてる」

「ちが…ぅ…ッ いやッ、いゃ、ぁ…!」

知らず内股になり、キラの脚を押さえ付けている様は、まるでねだっているようで、キラを更に煽った。
その脚の動きを突然止めればアスランは、ぁ…と名残惜しげな声を洩らしキラを見る。
焦れったそうに膝を軽く擦り合わせ、キラの視線に耐えきれないように瞳を逸らしてしまった。
アスランの局部に手をやり、キラはズボンの上から扱き始める。
上ずった声がまた洩れ、アスランは嫌々と頭を振った。
先程の濡れた熱い視線の後に抵抗を示しても、あまり意味はないのだが。

「ねぇアスラン。彼奴が死ねって言ったら、君は死ねる?」

不意に、キラが耳元で囁いた。
快感に犯された思考の中、アスランは考える間もなく答えを見つけだす。

「……死ね、る…」

軽薄な息の中、しっかりとキラの瞳を射抜き、アスランは言った。
意外性のある答えだが、キラは表情を崩さない。
それどころかアスランに、にこりと笑い掛けた。

「そう…」

「ッ、キラ……ひぃ、ぁあッ!!」

ぐっと、アスラン自身を掴む手に力を籠め、潰してしまいそうな程に握り締める。
痛みに悲鳴を上げながらアスランの身体が戦慄き、がくっと膝が崩れた。

「あは。イっちゃったの?アスランって痛い方が感じるんだね」

じわりと染みの浮かんだ局部を、わざわざしゃがみ込んで見やり、キラはぽろぽろと涙を流す双眸を見た。
余韻に浸る身体はぴくぴくと小さく震え、上手く動かない。
それに乗じてキラが、アスランのズボンに手を掛けた。

「違う…ちがっ…嫌だ、放せッ、放せ!」

「っ…おとなしくしなよ」

キラを力一杯押し返そうとするアスランのズボンを、キラは手早く下着ごと脱がせる。
冷たい空気に下肢が曝され、羞恥にアスランの身体が薄らと朱に染まった。

「あ…ッ!」

「すごい…溜まってたの?」

ぐちゃぐちゃだねと言いながら、キラはアスラン自身に直に触れる。
一度達したというのに、未だ萎えきっていないそれに笑い、キラはまたアスランに言う。

「ならさ…僕の為に死んでよ」

「なに、言って…キラ…?あ…ッ」

にやにやとした笑いを引っ込めて、真剣な面持ちで言うキラに、アスランは戸惑いを見せた。
理解出来ないと言いたげなアスランの表情に、キラの胸に黒い感情が押し寄せる。
彼奴のときは…即答したじゃない。
垂れ込める沈黙が重くアスランにのしかかる。
何か、言わなければ。

「お前は…イザークじゃな…ぁああッ!いたぁ…ッ」

アスランの言葉に、キラはまた逆上する。
直に触れられている自身を強く握り込まれ、アスランは悲鳴を上げるしか出来なかった。

「黙れ…!」

痛みからか、恐怖からなのか、それとも、悲しみか…。
軽い嗚咽を上げながら涙を流すアスランに、キラは怒鳴る。
悲壮な眼でキラを見つめるしか出来ないアスランの唇に、キラがまた己のそれを重ねようとした時、この場には似合わない軽快な音をたて、扉が開いた。
キラが嫉妬し、アスランが表には出さずとも待っていた人が、そこにはいた。

「アスラン、ここにい…貴様…!!何してる!!」

アスランを探して来たのだろう。
いつものポーカーフェイスで部屋の扉を開けつつ声を放ったイザークは、中で起こっていることを見て言葉を変えた。
まさか、こんなことになっているなんて、誰が予想出来るものか。

「イザー…ふぁッ、く、ぁあ…!!」

縋るように、だが、こっちらには来ないでほしいと言うように、アスランはイザークを見た。
だがキラは、アスランをこちらに向かせようと更に愛撫を加える。
イザークの前で犯されても尚、快感に震える浅ましい身体を、イザークは許してくれるだろうか。

「みな…ッ、みるな…ぁッ」

事情を理解したイザークが、大股で二人に詰め寄る。
嫌だと嗚咽混じりで言うアスランと、キラとの間にイザークは割り込んだ。

「なにす…っ!!」

どんっとキラの肩口を押し、軍服に包まれたアスランの肩を抱き寄せる。
アスランの両手首には、キラの指のあとが赤く残っていた。
ふるふると震えながら、アスランは縋るようにイザークの胸元に頭をあずける。

「アスラ…く…ッ」

キラはすぐに態勢を立て直し、易々とイザークの背後を取った。
途端にキラは、イザークの喉元に爪をたてる。
つぷっと硬い爪が皮膚を裂き、イザークは痛みに眉を寄せる。
ぎりぎりとそのまま力を籠めれば、イザークの軍服の襟元はだんだんと赤く染まっていった。

「アスランに触らないでよ!」

離れてとヒステリックに叫び、キラは力を弛めない。
イザークはアスランを守るように自分の胸にアスランの頭を押しつけた。
だが、守られているだけなのは性に合わない。
イザークの腕を押し退けるように身体を離し、やっと何が起こっているのかを知った。

「ッキラ!!やめろ!!」

イザークの身体を傷つけ、首を絞めるキラの両手を、アスランは無理矢理引き剥がす。
殺意の籠もったキラの瞳に、悪寒が走った。

「アスランは…僕が嫌い?」

じっと、イザークはアスランを見る。
何を言えばいいのかをその視線で訴えられ、アスランはキラにごめんと呟いた。
それだけで、充分だというのに。

「俺は…キラが…きら…い」

「……………………………そう」

キラはすっくと立ち上がり、一直線に扉へと向かった。





「っ…あんな、こと…本当は……!」

キラが部屋を後にした後、アスランはイザークに縋りついた。
イザークは泣くアスランを立たせ、近くのベッドに座らせる。
シーツを掛けて下肢を隠し、アスランの前に膝をついた。
アスランは恐かったと嗚咽混じりに言いながら、キラに自ら発した言葉を否定する。
イザークはそんなアスランに少し笑い掛け、キラの手に触れて赤い血に濡れてしまった指を舐めた。
生温かい感覚に、びくっとアスランの身体が震える。

「よくあんなことが言えたな…。あいつは貴様の大事なお友達じゃなかったか?」

アスランを見上げながら綽々と言うイザークの、あんなこと…とは、アスランがキラに言った言葉のことを指していた。
嫌いだと、言ってしまった。
アスランの昔を知る、唯一の人に。

「だが…っ……。俺は、イザークさえいてくれればいい…から…」

アスランはそっと身を乗り出し、傷ついて血の滴るイザークの首筋に顔を埋めた。
端から見れば、喉元に噛み付いているように見える。
涙で濡れたアスランの頬が触れ、一瞬イザークに冷たいという感覚を与えた。
だが、くちゅりと音をたてながらも懸命に血を拭うアスランの柔らかな髪を、イザークは愛しむように撫でてやる。
こんなにも、愛しい。

「アスラン…もういい」

「ん…っ……」

とんっと肩を押せば、アスランはそこに吸い付き、名残を惜しむように離れた。
軽く、ついばむようなそれ。
ほんのりと朱に染まった頬に、イザークが気付くのは早い。
すっと手を伸ばして火照った頬に触れ、くすりと笑ったイザークの、あまりにも綺麗な笑顔に魅せられる。
思わずほぅ…と息を吐いたアスランと、イザークの間が急に縮まった。
お互いの息を、貪るように口づける。

「………んッ…は、ぁ…」

全て奪って、奪って奪い尽くしてもまだ、俺のものにはならない。
濡れた唇に触れ、そっとなぞる。
アスランのその挑発するような行動に笑い、イザークはアスランをベッドに押し倒した。
散らばった群青の髪を手に取り、それに唇を落とせば、頬は瞬く間に赤くなっていく。
一挙一動に煽られながら、アスランはイザークの首に両手を回す。

「そのお友達に襲われたというわけだが…何故こんなことになった?」

またキラの話を持ち出すイザークに、アスランは笑ってしまいそうになる。
目に見えてわかる嫉妬。
そういうところは変わらない。
アスランが想っているのは、イザークだけだというのに。

「イザークにもし死ねと言われたならば、俺は死ねると…言ったんだ」

「………」

「そしたら…キラがキレた」

かなり簡略化しているが、事実と言われればそれもそうだと言うしかない省き方で、アスランはイザークに説明した。
じっとアスランの瞳を覗いていたイザークの菫色の双眸が、表情が、弛む。

「…アスラン……俺も死ねる。貴様が俺に死ねと言うならな」

イザークの言葉に、アスランは眼を見開いた。
死ぬなんて、言わないでほしい。
アスランの大事な人達は、イザークを除いて皆いなくなってしまったというのに。
するりと頬を撫でたイザークの掌に自分のそれを重ね合わせ、アスランはいとおしむように擦り寄った。

「……俺は…そんなこと、言わない」

「そうかもな」

また唇を合わせ、何度もついばむように口づける。
焦れたようにそっと唇を開いたアスランの誘いに乗り、イザークはアスランの口腔内に舌を這わせた。
嚥下しきれない唾液が喉を伝うまで施された愛撫に、アスランは熱の籠もった息を吐き出す。

「貴様を残して…逝ったりは出来んかもしれん」

苦々しく笑いながら、イザークは先程の言葉を取り消した。
涙で濡れてしまった目尻を舐め、喉まで伝ってしまった唾液を指先で拭った後のその言葉。
アスランもイザークに手を伸ばし、その真直ぐな銀の髪に指を絡めて遊んでいる。
そしてその言葉にしばし考えた後、イザークと同じような笑みを零した。

「やっぱり、俺も」

「なら死ぬときは…」










一緒だな













そう囁き合い、イザークはアスランの首筋に顔を埋めた。
タートルネックの、邪魔な襟首を無理矢理下げて、現れた白い皮膚にキツク吸い付き、鬱血の跡を残す。
思わず吐息を零したアスランに笑い掛け、イザークはシーツに覆われた下肢に手を伸ばした。

首筋には、くっきりと残った所有の証。

白に栄える赤は美しい。
アスランに抵抗を示すような行動はなく、イザークを縋るように見つめているだけ。
待ち望んでいたのか、それとも恥ずかしいのか。

「辛いんだろう?……ここ」

「あ…ッ」

シーツの上からやんわりと包み込むようにアスラン自身に触れ、イザークは刺激を与え始める。
元々緩く立ち上がり始めていた自身は、少しの刺激ですぐにわかる程形を変えた。

「やぁ…ッ、ん、んぁっ」

シーツに染みが出来ていく様にイザークは笑みを隠せない。
くちゅくちゅと水音が響き、生理的な涙が翡翠を揺らした。
喘ぐアスランが、一際大きく体をしならせる。

「ひぁ…!だめッ、イく…っ ぁあァああッ!」

びくん、と身体が震え、今日二度目の熱を吐き出した。
荒い息をし、余韻に浸るアスランの頬に触れ、額に軽くキスを落としたイザークの軍服を、握る手は力ない。

「満足したか?」

「わかってるくせに…」

拗ねたように言ったアスランに、イザークは意地悪そうに微笑んだ。











どちらが捕われているのかなんて…



わかりはしない







だが俺は確かに、お前に捕われていると思う









そう、これは…









服従心に似ている




END




後書き


キラ様失踪。

あ、いえ、20000Hitありがとうございます!!
10000Hitフリーと同じく、この話も無期限フリーとさせていただきます。
転載方法は下に書かせていただきました。

相互様には、無理矢理押しつけてしまおうかな…なんて思っておりましたが、なんせブツがブツですので…(微裏)
持っていってやるという方には、喜んで差し上げます!

………この話って、甘いんでしょうか?それともシリアス?
…表示に困ります…
とりあえず、テーマは服従心です(笑)

ではでは、失礼致します。
20000Hit、そしてここまで読んで下さり、本当にありがとうございます(深礼)


まな
05.12.07


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まなの名前さえ入れて下されば、リンクの有無は問いません。