昨日は過去 今日もすでに過去 この日ばかりは部屋から一歩も出たくなくなってしまう。 巨大スクリーンで見た、燃えゆく大地、人間が住んでいたとは思えない程に破壊された土地。 宇宙に浮かぶその姿は、廃墟だった。 人の手から離れ、手入れもされず、ただそこにあるだけの廃墟。 その廃墟も、もうない。 破壊した。自分の手で。 仕方がなかった。 母の姿もそこに、あった筈なのだけど。 仕方がなかった。 地球に墜ちるよりは 生きているものが住みゆく土地が無くなってしまうよりは、死んだ者が住みゆく廃墟がなくなった方が、マシだったから。 仕方がなかった。 空っぽの死者の眠る場所へ行くよりも、死んだ者が住むそこに行く方が、好きだったのだけれど。 未だ残骸の残る、オーブの岩ばかりの島とも言えない場所に花を手向けに行く方が、空っぽのあそこへ行くより好きだった。 確かにそこに居たのだと、思えるから。 …自分の罪を、感じられるから。 そしてそれを 彼にも、背負わせたい。 …アスラン そっと柔らかな蒼髪を撫でる白い手。 何時もは怒鳴るように起こす人も、今は常よりも落ち着いた声で名前を呼ぶ。 艶やかな流れを作り出すように手を梳きながら、じっと俯く横顔を見つめた。 深い影を落とす白い頬には時折雫が零れ、やはり白い手が拭う。 閉じられた目蓋に碧玉は隠され、氷晶はただ横たわり涙を零す隣に座っていた。 …イザーク やっと、アスランは身体を上げた。 腕で支えるようにして上半身を持ち上げ緩慢な動作でベッドの上に座る。 それでもイザークのことを見ることは出来ずに、ただ俯いてその名を呼んだ。 その様子をじっと見つめ、イザークはすっとアスランに両手を伸ばす。 視界に入ったその腕にアスランは身体を預け、イザークはその細身を抱き寄せた。 何年経っても、アスランはこの日は調子が悪い。 理由はわかっている為に、何も言わずイザークはただ傍にいる。 アスランが泣くことは多くなかった。 世程のことが無い限り、涙を見せようとはしなかった。 だが、この日だけは、何も無くともその瞳から涙を零す。 その様があまりにも痛々しく、イザークには耐えられなかった。 だからただ、傍にいる。 いつかアスランが泣かなくなるその日まで、その時まで。 本当ならば、少しポツリと涙を零して、弔って、それで終われる。 だが、それではイザークはすぐに帰ってしまうかもしれない。 アスランの脳裏にそんな思いが浮かぶのも知らず、彼はただ傍にいる。 大丈夫か? その問い掛けに、アスランはふるふると首を振る。 そしてイザークの服をぎゅっと掴みそろりと瞳を開き、じっと上を見つめた。 ついてきてほしい…場所があるんだ 濡れた翡翠の懇願に、氷晶が断れるわけはなく、そっと、どこにと問い掛ける。 答えたところは、岩ばかりの島とも言えない、未だ微かに残骸を残す場所。 微か細められた瞳を、少し笑って見上げる瞳。 END |
後書き アスが黒くてすみません… こういうイザアスは初めて書くので、少し緊張します。 …読みにくいですかね? バレンタインは、イザアスはやはり暗いか切ないかだと思ったのですが、ホワイトデーは甘くします…っ ですから許して下さい…!!(汗) まな 06.02.14 |