初めに


遅くなってしまい申し訳ありませんでした…っ(陳謝)

イザアスの甘となっておりますが、どこがなんだと感じてしまわれる方もいらっしゃるかもしれません(汗)
メイリンが微妙に出てまいりますので、苦手な方は読み飛ばして下さい。

このお話はフリーとさせていただきます。
では、また後程。

まな




君に愛を


理不尽に始まった戦争は、デュランダル元プラント最高評議会議長、グラディス元ミネルバ艦長、そして元ザフト軍パイロット一人の死によって幕を閉じた。
その戦争で、沢山の人々が巻き込まれて犠牲となり、戦った。
その中には、A.A.やエターナルも含まれるのだろう。

アスランは、キラよりも先にエターナルへと戻ってきていた。
艦内に収容されても尚、ジャスティスのシートに座ったまま、少し呆然とした様子で操縦桿を握っている。

終わった、やっと。

アスランはそう思ったが、戦争終演の何とも言えない虚脱感の中に、ちらちらと浮かんでくることがある。
今考えるべきではないと、わかっていた。
結果として人の死を持って終わった戦争の有り様に、いつもならば思考は深まっていくはずだった。
だが、それよりも今は、ユニウス・セブンの破砕作業の時にも見た、水色のザク…そして、聞こえた声。通信越しに見た、姿。
それらばかりが脳裏を駆け巡る。
もう艦に帰ってしまっただろうかと思いながらヘルメットを除けて小脇に抱え、アスランは緩慢な動きでコックピットを出た。
眼下で、一概に喜んでいるとは言えない声を上げている整備士達に視線を送らないようにしながら、機体を蹴る。
だが、響いた少女の声にふっと顔を上げ、その姿を視界に捕らえた。

「アスランさん!」

重力のないこの場では、飛び込んでくるメイリンを抱き留めるしかなく、アスランは驚いたような表情でその身体を支える。
微かに目に涙を浮かべているのが見え、その表情も弛んだものに変わったが。

「よかったです…無事で…」

「メイリン…」

少し困ったような声で名前を呼べば、メイリンはぱっと身体を離す。
慌てて謝る彼女に、アスランは思わず笑みを浮かべた。
緩く首を振って謝らなくていいと示せば、少し視線を伏せて自分の手を自分で握る。

「…本当に平和になったわけじゃないってことはわかってます。でも、アスランさん達が生きてて…私やラクスさん達も生きてて…それだけで幸せなんです」

「あぁ…そうだな」

アスランは同意を示すように頷いた。
自分達が幸せならいいと思っているわけじゃ、決してない。
それが感じられて、何だか救われたような気分になっていた。

全てを救える程、自分の手は頑丈なわけでもなく…

少しばかり和やかな空気を感じていた途端、はたと思い出したようにメイリンが視線を上げて笑みを見せた。アスランはきょとんとして、その表情を見つめる。

「あの、お客様が来てますよ?」

「え……?」

驚いたアスランの視線を導くように、メイリンはこの艦にない筈の二つの機体を指差した。
並んで格納されているそれは、紛れもなくザフトのもの。
それを視界に入れて、アスランは目を見開いた。

「アスランさんの部屋にいます」

笑顔で嬉しそうに言う彼女に軽く礼を言い、ヘルメットを投げ出してアスランは急いで格納庫を出る。

あの水色のザクは―…

脳裏を想いが駆け巡る。
こんなにも会いたかったのかと苦笑してしまいそうになりながら、自分に当てがわれている部屋の前で身体を止めた。
無重力下で立ち止まるための、廊下の手摺りを掴む手が汗ばむ。
すっと窓側の壁を蹴り扉に身体を近づかせれば、パシュッと音を立てて扉は開いた。
少しの躊躇の後、中に滑り込む。
部屋に入ったアスランの目線の先には、イザークとディアッカがいた。
二人ともアスランと同じようにパイロットスーツのままだ。
何も言うことが出来ずに扉付近で止まり、彼が入ってきたことに気付いたディアッカが片手を上げた。
緩められた口元が見て取れ、アスランは解かれたように二人に近寄っていく。
イザークは近くにきたアスランを睨み付け、低い声で名前を呼んだ。

「……アスラン」

「イザー…!?」

「何で貴様がここにいる!!」

答えるように名前を呼ぼうとした途端、身を乗り出してガッとアスランの胸倉を掴んだイザークが叫ぶ。
アスランは眉を寄せて顔を歪め、間近にあるイザークの顔を見、その問い掛けに息を詰めた。
その様子を見て溜め息を吐いたディアッカが、二人の肩を掴んで間に割り込んでいく。

「やめろよ!久しぶりに会うんだし」

アスランから引き剥がされたイザークが、面白くなさそうにふんと鼻を鳴らして顔を背けた。
アスランは俯いて顔に翳りを落とし、ディアッカが引き離す際に肩に籠めた力に身を委ねて二人から離れ、壁にとんっと背を付けて止まる。
そんな二人に再度溜め息をつき、ディアッカは近くの壁に背を預けて腕を組んだ。
イザークはと言えば、ベッドに腰掛けて足と腕を組み、アスランをじっと見つめている。
二人分の視線を受けて、アスランは壁に手を這わせて俯いたまま、口を開いた。

「……俺は、ザフトを裏切った」

重い声色で呟かれたそれに、吐き捨てるように舌打ちする。

「そんなことは知っている」

忌々しそうに低く返ってきた返答に、いつもと変わらない接し方に少しだけ涙が滲んだ。
いや、自分の言葉になのかもしれない。
だが、その涙とは違いアスランの口元は笑みを浮かべていた。

「………また、お前を…お前達を裏切った…」

「…あぁ、それも知っている」

その笑みが二人に見えることはなかったが、震える声で紡がれた言葉にイザークはふいっと顔を正面に向けて同じように呟き、ディアッカは軽く肩を竦めた。

「…それなのに何故…」

溢れた涙が、一雫分だけ空気に浮いていく。
ふよふよと漂い二人の目に触れたそれに、イザークはガシガシと銀髪を掻き乱した。

「…最初に議長を疑ったのは、ラクス嬢の偽物が現れた時だ」

坦々とした口調で、それでも先程よりも忌々しげな雰囲気を纏わせる。
その言葉にふっと顔を上げ、アスランは訝しむような表情でイザークを見つめた。

「イザーク……?」

伺うように声を絞れば、ディアッカがはぁと息を吐く。今日何度目かもわからないそれにイザークの眉がぴくりと跳ねたが、彼が気にする様子はない。
少し濡れて光を帯びた翡翠を見つめ、イザークが再び口を開く。

「その直後に俺達は、プラントで貴様の護衛監視をした」

「あの時は言わなかったけどさ…俺達、議長にお前を復隊するよう説得しろって言われてたんだ」

「……!」

交互に話すイザークとディアッカの言葉に、アスランの瞳が見開かれた。
バツが悪そうに顔を正面に戻したイザークが、組んでいた足を下ろして前屈みになり太股に肘を付け、その間で両方の拳を合わせて握る。爪で自分の手を傷つけてしまうのではないかと、アスランの視線がそこに移った。

「……悪かったとは思っている。だが、あの時の俺はまだ…議長を信じていた」

沈痛な声色で呟く彼の背が震え、手に力が籠められる。どうしたのかと問い掛けそうになるが、きっと明確な答えは得られないのだろう。
ディアッカに視線を移すと、それに気付いた彼に顎で話すようにと促された。
不意にずっと思っていたことを思い出し、アスランは促されるままに問い掛ける。

「ずっと…宇宙にいたんだろう?」

返ってくる返答は簡潔なもので、イザークは一言相槌を打つだけだった。
それをちらと横目で見やったディアッカが、引き継ぐように口を開く。

「A.A.のことは知ってた。お前が……脱走して…死んだってこともな」

「え……」

驚いたように、またアスランの瞳が見開かれる。
言葉が出ないらしい彼を鋭い目で見ていたイザークが軽く息を吐き、少し身体から力を抜いた。
だがそれも、息を吐いたことでぴくりと震えた肢体にまた鋭くなる。
ふいっとアスランから視線を外して、組んでいる自分の手を見つめた。

「…貴様は、俺たちに何も言ってこなかった」

ちらりとこちらを横目で見た藍眼に、寂しさが感じられたような気がする。
あながち間違いではないのだろうそれに、解かれたようにアスランは口を開こうとした。
だが、それにタイミングを合わせるように、ディアッカが言葉を紡ぐ。

「俺たちさぁ…お前から連絡くるの待ってたんだぜ?」

それくらいは言わせてくれと、紫の瞳が訴えた。
言葉で少し、アスランを責めている。
それを感じることは出来たが、アスランが不快に思うことはなかった。
そしてまた、被せるようにする声。

「前の大戦でも、俺は…貴様の選んだ道を信じてよかったと思った」

「………」

ひしひしと伝わってくる想いに、アスランは俯いて顔を伏せた。
今度は何か言おうとはせず、じっとイザークの言葉を聞いている。
率直なその言葉の続きを待った。

「俺は貴様の味方だ。前も、今も、これからも」

不意に間近から聞こえた堅い声に、驚きアスランは顔を上げる。
壁に片手を突き覗き込むようにしてアスランを見る表情は、不機嫌と思わせるように眉が寄せられており、どこか不満げだった。

「…俺もな」

「……っ」

ふわりと身体を移動させてこちらへ近付くディアッカの呟きに、息を呑む。
思っていた以上に強い信頼と、千切れていない絆を感じられた。
ようやく二人が口をつぐんでも何も言わないアスランに、イザークは眉間の皺を深くする。
それを雰囲気で感じ取り、浅黒く大きな手が、ぽんとアスランの頭に置かれた。
ぴくっと形のよい眉が跳ね上がり、イザークの瞳がディアッカを睨む。

「イザークはさ…頼ってほしかったんだって」

「貴様…!!」

弾かれたように壁から手を離し、イザークは口元を緩めているディアッカの胸倉を掴み上げた。
アスランの髪から手は離れてしまったが、気にもとめていないように言葉を続ける。
顔を上げたアスランを見つめる表情は穏やかだった。
へらりと笑って、今はこんなだけどと付け加えるディアッカに、イザークの顔が更に赤くなる。
ぐっと身を引いて片方拳を作り、殴る態勢になったイザークの様子にはさすがにディアッカも慌てたが。

「口を閉じろ!!歯を食い縛れ!!!」

「イザーク!!」

キンと耳を突き抜ける怒声を高らかに上げるイザークを遮るように叫んだのはアスランだ。
その叫び声に驚いたようにアスランを見たディアッカと違い、呼ばれた本人は呼応するようにばっとそちらを睨み見る。

「何だ!!」

苛立たしげに返すイザークの頬の赤みにクスリと笑みを零して、アスランは至上の微笑みを浮かべた。
長年の付き合いの二人ですらあまり見たことがなく、少しでも闇にかかったら崩れてしまいそうな笑みを。

「…ありがとう……」

「っ……」

アスランが零した言葉に息を呑んだイザークが、ディアッカから手を離す。
ふん、と鼻を鳴らして背を向けてしまった彼の背中に、ふっと壁から身体を離してアスランは身を寄せた。
ぴく、と微かに肩を震わせたイザークの身体に腕を回して、久しぶりに触れる体温を感じる。
振り払うこともなく押し黙ったイザークにアスランも何も言わずに目を伏せた。
穏やかな空気の中軽く息を吐いて、ディアッカは部屋から出る。

本当に世話のかかる奴ら…

呟きは誰にも聞こえることはなかったが、その口元は弧を描いていた。

「…こっちが恥ずかしいっつーの…」





扉の閉まる音を聞いて、イザークがアスランの腕を掴み抱き締めてきていたそれを外させる。
その行動に眉を寄せたアスランを、正面から強く掻き抱いた。
痛みを感じたのか更に顔が歪んだのが見えたが、イザークは腕の力を緩めない。
思い切り抱き締められて感じた痛みは一瞬で、次第に気持ち良さを感じて腕を回し返した。
骨が軋む程に強く、ただ強く…

「………俺のいないところで、勝手に死ぬな」

抱き合うことでアスランの耳朶に直接吹き掛ける形になったイザークの小さな呟きに、空いた隙間が埋まるのを感じていた。




END




後書き


こ、これがまなの書く"甘"なんです(汗)
甘々じゃなく…こう、痒いと感じるんですか鳥肌はたたないみたいな…
読み直していてすごく痒かったのですが、そんなことはないですか…?

こんな拙いお話をフリーとしてしまいすみません。
ですが皆様、本当に今までありがとうございました(礼)
これからも、よろしくお願い致します(深く礼)


まな
06.06.02

追記:姉さんには問答無用で押し付けさせていただきます(微笑)


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