淡く儚く


恥ずかしがり屋な彼奴は、滅多に愛を囁いたりしない。
だが、回してくる腕の強さに、全ての想いを確かめることが出来る。
それだけで満足だった。
廊下でうまく擦れ違うことが出来れば、そっと手に触れて掠めていく。
お互いに連れ立って友人と歩いている時は、鋭く前を見つめたまま体温を分け合った。
少しだけ感じられたその熱が嬉しく、知らず緩みかけた口元を引き締めるのはいつものこと。
任務さえ終わって自由の時間が出来れば、彼奴はいつも俺の部屋へとやって来ていた。
それは、今日も変わらない。

「…入るぞ」

短い言葉が部屋に通信として入ってすぐに、返事をする間もなくロックを開けて、彼奴は部屋に足を踏み入れた。
ベッド近くに立って軍服を脱いでいた俺は、手に持った上着をベッドに置いてそちらに近付いていく。

自然と頬を緩めてしまう。

それはあちらも同じのようで、普段は欠片も見せない優しい微笑みを俺に向けていた。
近付いていく俺に近付いてくる彼奴に、そっと抱き締められる。
さらさらと流れる髪が頬に当たって擽ったく、だんだんと籠もっていく力が心地よかった。

俺も、その背中に手を回す。

「…アスラン……」

鼓膜を揺さ振る声が気持ちいい。
背に回した腕にぎゅっと力を籠めれば、いつもの仕草で髪を撫でられた。
俺よりも大きい手が、髪を梳くように掠めていき、ふっと耳の後ろにその手が触れた途端、擽ったさを感じた。
息を詰めて身を捩った俺に、イザークは笑う。
それに反抗するかのように眉を寄せるが、不意に込み上げてきた言葉に、その皺は消えていった。

「イザーク…愛してる」

自然と口元を緩めて肩に額を押し付け囁くように言えば、ぴくっと髪を梳く手が止まる。
押し付けていた額を離しその肩に頭を乗せて顔を見てみれば、目線は宙に逸らされて顔は真っ赤になっていた。
それを指摘すると、煩いと怒鳴ってくるから決して言えない。
ただ、その様子を見てくすりと笑った。

「……笑うな」

だが、それも嫌らしい。
ぴく、と時折押さえ込んでいるかのように震える口元が、笑みを堪えているのを示していた。
嬉しいくせに、眉を思い切り寄せている。
笑みを押さえることが出来ずに、くすくすと笑ってしまった。
だが、仕返しと暗に言うように顎を取られて口付けられる。
照れていることを誤魔化すように何度も唇を掠めるように触れ合わせるキスが続き、俺はそれに答えていた。
だが、突然に舌が差し込まれ驚いてしまう。

「…ん……っ、ちょ、イザ…ッ」

抑えるようにその肩を押せば、逃げるのを許さないと後頭部を押さえられる。
諦めたように再度イザークの背に腕を回して服を掴んだ。
そうすれば、荒々しくなくやんわりと口付けを深くしてくることを知っている。
差し込まれた舌が上顎を撫でていき、身体が震えたのが自分でもわかった。

「ふ…っ、ん……」

じわりとした熱が口腔内に広がっていく。
徐々に自分からも舌を絡めていけば、そいつは口付ける角度を深くして舌を絡めてきた。
眉を寄せるほどに強く目を瞑れば、目蓋の向こうで彼奴が笑う。

「んっ、んぅ…ッ」

鼻で息をしても追い付かない程の息苦しさを感じて服を掴む手に力を籠めれば、ようやく唇を解放される。
浅い息をして空気を取り込んでいく俺に余裕の笑みを向け、彼奴は俺の頬を撫でた。
しっかりと熱を持ったそこは、先程のこいつぐらい赤くなっているのだろう。

「…言って…くれないのか?」

少し濡れた瞳を薄らと開けてそっと見上げるように見れば、ぐっと息を詰めるイザークに愛しげな視線を向けてしまう。
なぁ…と吐息混じりに告げながら、擦り寄るように頬を合わせた。
軽く悪態を吐いた彼奴が、俺を痛いくらいに抱き締めてくる。

耳元に、これ以上近付けられない程に唇を寄せてボソリと言われた言葉は、胸を痛いぐらい締め付けた。






愛してる…




貴様だけを、な






その後また、やはり真っ赤になったイザークを、俺はやはり笑ってしまった。




END




後書き


ぅああ…っ
あちこちが痒いです…

本当はこのお話、キリリク小説用に書かせていただいていたのですが…
アスが天然だということを見抜かしておりまして…!
申し訳ありません峰凛様…もうしばらくお待ち下さいませ(汗)


まな
06.06.22