唇に触れる舌先 「おい、早くしろ。行くぞ」 玄関から聞こえる苛立った声に、俺は少し急ぎながらコートの袖に手を通した。 マフラーを掴んでそちらへ向かえば、イザークはもう靴も履き終えて、万全の状態で待っている。 じっとこちらを見つめてくる彼の前にしゃがんで靴を履きにかかると、手に持っていたマフラーをするりと奪われた。 何をするんだと言おうとして顔を上げた俺の唇に彼のそれが触れ、ちゅ、と小さな音を立てて口付けられる。 拍子抜けしている俺を放って、彼は俺の首にマフラーを巻いていた。 「…どうした、アスラン」 「な…っ、んでもない‥」 瞳を覗き込まれてはっとなり慌てて首を振るが、何と無く顔が熱い。 靴を履き、視線に促されるように立ち上がって扉を開けると、後ろからそっと抱き締められた。 外から吹き込む風が、頬を冷やしていく。 「‥…イザーク…」 「…やはり寒いな」 ぼそりと呟かれた、駄々をこねるような言い方に小さく笑って、彼の手をそっと握る。 外見は冬のようなのに、こいつは寒さにめっぽう弱かった。 俺は、どちらかと言えば冬の方が好きなのだが。 冷たい手を温めるように握り続けていると、指を絡めて繋ぎ直され、それと同時に身体を離された。 手は繋いだままにして家を出て、イザークが鍵を掛けている間に、彼のコートのポケットの中へと繋いだ手を入れる。 じわりと感じる熱に目を細めて指を絡め直し、素知らぬ顔をして歩き始めた。 ぴたりと引っ付いている身体が、少し恥ずかしい。 「…大丈夫なのか?」 厚手のコートとマフラーを身に付け、身体を寄せ合っているにも関わらず寒いと呟くイザークの顔を横目で盗み見た。 赤みを帯びている頬は、きっと冷たいに違いない。 ざくざくとふたりで踏み固めていく雪の音だけが、耳の中で優しく響いていた。 吐く息も白い。 「…大丈夫だ。早く行くぞ」 熱を持ち始めた手に少し力を込めると、ふと笑みを零した彼に握り返された。 これから映画館に行って、アクション映画を観る予定なのだ。 公開されたのはけっこう前だが、面白そうだとテレビに映る度言っていた俺に、ついに彼が負けて連れて行ってくれることになった。 最新のテクノロジーを使って製作されたらしいそれは、彼が見ても意味はわからないだろうが。 何にせよ、久しぶりの…久しぶりのデートなのだから、楽しみたい。 「もう大分経つから…人もそんなに居ないだろうな」 「小規模な所へ行くから余計に、か。貴様を人込みには連れて行けん」 過保護だと思うが、俺もイザークも人込みは嫌いだから仕方がない。 それでも以前は、公共の交通機関を使ってみたりしていたのだが、満員電車の中で何故か二人共が痴漢に会い、それ以来車か自分の足を使うようになった。 野郎のお尻を触っても、固いだけだと思うのだが、そこは痴漢にとって問題ではないらしい。 もちろんその時の痴漢は、二人とも捻り上げたが。 「…今晩のおかずは唐揚げにしろ」 「………わかった」 唐突に呟かれた言葉に、少し反応が遅れてしまった。 帰りに鶏肉と、サラダの為の野菜を買わなければならない。 あ、そういえば今さっきまで何を…いや、いいか。どうせくだらないことだろう。 鶏肉、冷凍して置いてあるものがあったはずだから、やはり買わなくていいな。 野菜だけ買って帰ろう。 俺の晩御飯への思考は、そこでぷつりと途切れた。 目の前には、小さな映画館がひっそりと建っている。 庶民的なそこは俺達も気に入っていて、映画を観に行くとなれば必ずここに来ていた。 入口の脇にある受付に近寄って行き、大人用の入場券を二枚購入する。 下が少し切り取られた二枚分の券を財布に仕舞い、それをポケットの中に入れた。 代金を出したのはイザークだ。 「十五分後か…ちょうどの時間だな」 館内の時計を見て口元を緩める俺に、彼は小さく笑みを零す。 視界の端に、しっかりとそれは映っていた。 そちらを向いて何だよと言うと、別に、とだけ呟いて俺の手を引きながら売店に向かう。 その背中に息を吐き出し、俺は諦めて足を動かした。 「お茶でいいだろう?」 「…お菓子は要らないからな」 「わかっている」 お菓子を買うと、くだらないことで喧嘩になるから厄介だ。 貴様の方が多く食べただの、俺はまだ味わってすらいないのだの、映画に集中しながら手を動かしている俺に言うのが間違っている。 そのくせ、自分で箱を持つのは嫌だからいつも俺に持たせるんだ。 …何だか腹が立ってきた。 「アスラン」 「っうわ!?」 不意に頬に当てられた、大きいサイズの温かい紙コップ。 冷たくなっていた頬には良いものだが、突然のことに驚いて俺は声を上げてしまった。 そんな俺を見て、イザークは可笑しそうに笑っている。 その顔を見ていると何だかどうでも良くなり、俺は小さく笑いながら差し出されていたお茶を受け取った。 二、三年前の俺達だったら大喧嘩だ。 「行くぞ」 「本当に人が居ないな…」 居るのは入場券と売店に一人ずつ、他の映画を観に来ている客が向こうに見えたが、俺達の方には一人も居ない。 さっさと歩いて中に入ろうとするイザークの後を追って一緒に扉を抜け、一番後ろの真ん中を陣取った。 後ろから見ても、人は俺達の他に居ないようだ。 「貸し切りだな」 「ふん、映画館を貸し切るくらい簡単だがな」 「無駄金は使わなくていいんだ」 イザークは少し、金銭感覚が飛んでいる。 肘掛けの先に付いている丸いポケットにお茶を入れ、一度立ち上がってマフラーを外し、コートを脱いだ。 すると彼も立ち上がり、同じようにし始める。 隣が空いていることをいいことにお互い隣の席へそれを置き、その後で交互にトイレに行った。 彼が戻った時にちょうど場内が暗くなり、観る必要のないCMが流れ出す。 お茶をストローで吸い上げて飲みながら、片方の手を繋ぎ合って身を寄せた。 人は少し増えて、男女のカップルが一組と若い男性が下の方へ疎らに座っている。 本編が始まって約三十分程が経つと、俺は映画の中に引き込まれていた。 使い方は知っているが、実際に見たことはない珍しい機具も登場している。 この映画のメインはその機具ではなく、本当はちゃんとした話なのだが、俺の目と意識はそちらばかりを追っていた。 実に真剣に見入っていたと思う。 いつの間にかそっと外された手にも気付かない程だ。 だが、それがいけなかった。 突然するりと、イザークの手が俺の内股を撫でたのだ。 「!?…イザーク、やめてくれっ」 「前を見ていないと見逃すぞ」 声を抑えて叱咤するが、彼に気にする様子はない。 こちらに身を乗り出す彼の手を掴み、肩を押すがあまり効果はなかった。 耳殻を甘噛みされ、同時にスラックスの上から自身を撫でられる。 思わず漏れそうになった声を押さえる為に、口元に手を宛がいながら背中を丸めた。 最早、映画どころではない。 せっかく楽しみにしていたのに、この馬鹿野郎! と言う目でそちらを睨み付けると、くすりと笑って場内から出るか?と囁かれた。 刺激を与えられ続けた自身はゆっくりと布を押し上げ始め、窮屈さを訴えてくる。 膝を擦り合わせながら吐息を殺すが、はっきり言ってもう後には引けなかった。 幸い、派手な音を立てるシーンが多い映画なので、今はまだばれていないだろうが。 「っ…‥ふ…」 「それとも、ここでスるか?アスラン…」 耳朶に纏わり付くねっとりとした囁きに慌てて首を振ると、腕を引かれて立ち上がらせられた。 コートとマフラーを慌てて引っ掴み、ぐいぐいと引っ張られるままにイザークの後を歩く。 ここが公共の場でなければ殴ってやるところだ。 コートで前を隠しながらついて行った先は、館内に数箇所ある中でも、あまり人が来ないトイレの一つ。 まさかこんなところで、と思って顔を見るが、イザークは淡々とした足取りで一番奥の個室へ向かい、コート類を荷物を置く為に付いている棚の上に纏めた。 「ぃ、イザーク…!」 「…真剣に見入る貴様の横顔が、あまりにも可愛くて襲いたくなった」 「ばっ…‥ん、ふ…」 冷たい壁に押し付けられ、告げられた言葉に思わず馬鹿じゃないのかと言いかけた唇を塞がれる。 両手首を取られて顔横に縫い留められ、眉間に皺を寄せて目を閉じた。 ちゅく、と小さな音を立てて舌が差し込まれ、俺の舌と擦り合わされる。 熱の篭った吐息が漏れ始めるとイザークの手は俺の手首から離れて、カチャカチャと音を立たせながら俺のベルトを外していった。 少しずつ口付けの角度が下がっていき、俺よりも背が高いはずの彼の顔が下にくる形になると同時に、俺も顎を引いてそれに合わせる。 何をするつもりなんだと問い掛けることはできないまま、下着とスラックスをずらされて状況を理解した。 ひんやりとしたトイレの慣れない空気に、ぞわりと鳥肌が立つのを感じる。 熱を持った自身を手で包み込まれ肩を揺らすと、ようやく唇が離された。 「っ、ん…‥」 はぁ、はぁ、と大きく音を立てながら繰り返される自分の呼吸に眉を顰める。 彼の肩に両手を乗せてそっと目蓋を押し上げれば、熱を孕んだ青い瞳と目が合った。 見下ろしていた瞳が少し高い位置に戻った途端、身体を反転させられる。 彼に触れたばかりだった手を壁につく羽目になり、腰を引き寄せられて下肢を少し後ろに出す格好になってしまった。 膝の辺りに絡まったスラックスが自由を奪う。 再び自身に絡み付いてくる指先に、思わずびくりと身体が跳ねた。 そのままゆるゆると上下に扱かれ、半勃ちだった自身が更に硬さと太さを持ち、どくどくと脈打ち始める。 拳を握り締めてそれを壁に押し付けながら、懸命に声を耐えた。 ここはトイレだということを忘れてしまいそうになる。 「ふっ、ぁ…‥ッ、ん…」 「声を出せ。少し響くがな」 そんなこと出来るわけがないと首を振る俺を、小さく笑う音がした。 眉を顰めて背後を睨む間もなく、自身の先端に爪を立てられる。 窪みに食い込みそこを広げるような動きをするそれに一瞬瞳を見開き、背中を反らせて身体が崩れないように片膝を壁に擦り付けた。 「ひ…ッ、ゃ…!」 痛みを快感に変えることを知っている身体はその熱を増し、彼の爪先に入り込ませるかのように先走りを零す。 くちゅ、と小さく響いた音に羞恥して首を振ってみるが、項に触れた唇の感触に身体は強張った。 皮膚を噛みながら吸い上げられて感じるのは痛みだけだったが、じん、と胸が熱くなるのを覚える。 執着し、愛してくれているという証を刻み込まれた気分だ。 イザーク、と掠れる声で名前を呼べば、自身の絶頂を促すかのように根本から先端へと指で強く擦られ、耳朶に吹き掛けるように愛していると囁かれる。 「んぁっ…ぁ‥、ダメ…」 「一度イけ、アスラン」 「ふ、ぁッ…ぁあー…!」 かぷ、と耳殻を甘噛みすると同時に再び先端に爪を立てられ、ぞわりと身体を震わせながら彼の手の中に放ってしまった。 そのまま下に崩れ落ちそうになる身体を脇の下に回った片腕で抱き抱えられ、促されるままにゆっくりと足を動かす。 蓋の閉められた便座の上に彼が座り、俺はその彼の膝の上に跨がることになった。 向かい合う形でそっと頬を撫でられ、知らぬ間に流れていた涙を拭われる。 その指先に誘われるように顔を近付けると、察してくれたのか彼は口付けを施してくれた。 「ん、ぅ…‥」 互いに目を伏せて何度も唇を重ね直し、角度を変えて啄み合う。 余裕などかけらも見られない、貪るような口付けに夢中になった。 だが、突然双丘を這う濡れた指先の感触に身体が跳ねる。 彼の指先を濡らしているそれは、紛れもなく俺が先程出したものであり、その指先の向かっている場所が双丘の奥だったからだ。 思わず退いてしまいそうになる身体を抱き竦められて、ほとんど抵抗も出来ずに秘部の入口にひんやりとしたものが触れる。 小さく音を立てながら丁寧に塗り込められていく感覚が羞恥を誘った。 だが、彼の熱を受け入れることを知っている身体は、ぞくぞくとしたものを背筋に走らせて期待している。 「ふっ…‥っ、ん…」 「…力を抜け」 低い声で囁き掛けられると同時に、ゆっくりと指先が差し込まれた。 思わず床に爪先を付け、身体を震わせながら腰の位置を上げてその指から逃れようとする。 気持ち良いという感情は無視した、ただの反射的な行動だった。 だが、その腰は容易く彼に掴まれて引き下ろされてしまう。 そのまま根本まで埋められる指に内壁を擦られ、俺はぎゅっとそれを締め付けた。 「ぅあ…ッ‥ん、っ‥…」 声を漏らした唇を、優しく啄まれる。 その感触に薄らと瞳を開けば、笑みを浮かべている彼が見えて身体が熱くなった。 そのまま内壁を擦り上げられてこそばゆさを感じ、冷たいはずの空気も全く気にならない。 初めて身体を重ねた頃には痛みしか生み出さなかった行為は、その回数を増す毎に俺の身体を変えた。 今では、後ろを弄ってもらわなければ満足出来ない。 こんなこと、悔しくてイザークには言えないが。 厭らしい身体だと、自分でも思った。 「アスラン、今日はやけに締まりがいいな…場所のせいか?」 「ぁ…っ、ゃ…違っ…」 言われて思い出す、ここが公共の場だという事実に身体が震える。 自分達が乗っているのは、紛れも無く洋式の便器だ。 そのことに再び羞恥が沸き上がり、更に強く指を締め付けてしまうと彼は軽く笑った。 指に絡む粘膜を何とも思っていないのか、奥で指が蠢き始める。 ぐっ、と指先で何度も内壁を押されたと思えば、蕾を広げるように手全体が左右に揺らされた。 激しく行われるそれにバイブを使われた時と同じような感覚を覚えて、俺は彼の肩に強くしがみ付く。 「ぁ、あ…ッ、ぁー…ぅ‥ん、ぁっ」 じわり、と中が湿るのを感じた。 それと同時に皮膚からは汗が滲み、自身からは先走りが零れる。 身体の中も汗を掻くのだろうかと的外れなことを考えていると、指の本数が増やされた。 今度は三本の指で、同じことを施される。 入口を無理矢理開かされる痛みを、感じている間もなかった。 すぐに奥まで押し込まれた指が再び激しく揺らされ、爪が内壁を掠めていく。 気持ち良さに、頭の中が霞んでいった。 床に付いた爪先が震え、自然と背筋がのけ反り声が漏れる。 じわじわと、再び身体の中が熱く湿っていくのを感じた。 くちゅ、と小さく音が響いたのはきっと聞き間違いではない。 そこで指は引き抜かれ、喪失感に疼く入口には彼自身が宛がわれた。 「んっ…熱い…」 「…愛している、アスラン」 それまであまり口を開かなかった彼からの突然の告白に、身体が熱を上げる。 俺も、と告げようとした言葉は、ぐっと腰を引き下ろされると同時に蕾を割った彼の熱によって意味のない言葉に変わった。 「ィザ…ッァア…っ!」 曝された臀部に触れるのは、脱がれることのない彼のスラックス。 そのまま腰を揺さ振られ下から突き上げられて、内壁を擦る自身の硬さに快感を覚える。 自ら腰を揺らして良い所に当てようとすれば、腰を掴む彼の手によってそれは阻まれた。 何故、と言う目で彼を見ると、可愛いと宥められて唇を啄まれる。 俺が欲しいのは、こんな生温いものではない。 もっと快感に貪欲になった彼と熱を共有したい。 まだ余裕のある様子に内心悔しさを感じるが、突き上げられる度にそんな考えすらも霞んでいく。 彼の耳朶に唇を寄せて、耳殻を甘く噛み締めた。 小さく肩が震えた後、体内で自身の質量が増す。 そんな彼を締め付けながらちゅう、と耳殻を吸い上げれば、アスラン、と少し余裕を無くした声で名前を呼ばれた。 「っ、は…イザ‥も…と…」 熱の篭った息を濡れた耳朶に吐きかけながら、俺が小さく強請った時、今まで二人だった空間に違う気配が入って来るのを感じた。 伊達に軍人をやっていたわけではない。 思わず身を固くした俺にふっと笑って、彼は俺の双丘をわし掴んだ。 何をするつもりだ、と睨む間も与えられず、今まで避けていた前立腺をぐりっと先端で押し上げられる。 「っ、っ――ッ!」 扉の向こうには、未だ誰か居る。 咄嗟に両手で口を覆う俺にかまわず、彼はそのままゆさゆさと身体を揺さ振った。 ぐちゅっぐちゅっと卑猥な音を立てながら、続けざまに前立腺を強く擦り上げられて身体が強張る。 ようやく水の流れる音が聞こえ、第三者がその場から居なくなった頃には、俺は達しそうになっていた。 「よく我慢したな…?」 「バ、カ…っ、ぁ…ひ‥ッ…あッ、ぁーっ、あ…ぁんっ」 くつくつと楽しそうに笑う彼を目一杯睨んで悪態を吐けば、それを咎めるかのように律動が激しくなる。 もちろん突き上げられているのは前立腺だ。 だらし無く垂れている先走りで濡れた自身も、腰が動かされる度に揺れる。 もう駄目だと告げることも出来ずに、俺は彼の服に白濁をかけてしまっていた。 「ぁあー…ッ、ぁ、は…っ」 「っ、ん…ッ…」 きつく、搾り取るように締め付けた彼自身からも熱が吐き出される。 体内を満たしたそれに何とも言えないものを感じていると、ちゅっと音を立てて口付けられた。 「…愛しているぞ」 「あぁ…俺も…」 互いに肩を上下させながら囁き合い、少しの間だけ行為の余韻に浸る。 急激に体内の熱が下がり、当たり前のように寒さを感じて身震いした俺に気付き、彼は中から自身を引き抜いた。 トイレットペーパーで軽く下肢を拭いた後、彼の服に付いた白濁を見て二人で失笑する。 出来るだけ拭いてはみたがやはり渇くとかぴかぴとした手触りを与えるそれをコートの中に隠し、家に帰ったらまずシャワーかと体内に未だ鎮座するものにそう考えながら、その前にスーパーへ寄らなければならないことを思い出して苛立ちを覚えた。 「…何故お前はこう、考えが足りないんだっ」 「貴様だってよがっていただろうが。もっと、と強請っていたのはどいつだ?」 個室から出ながら声を荒げれば、彼は負けじと言い返してくる。 すたすたと、普段の二倍ほどの速さで歩いて館内を抜け、さっさとそこを後にした。 「だいたい、人が来たら気配を殺すだろう」 「耐えている貴様が可愛かったからついな」 「それに、俺はあの映画を楽しみにしていたんだぞ!」 「アスラン」 「何…っ」 ざく、と雪を踏み締めた途端、同じく早足でついてきていた彼に手を掴まれ、ばっと後ろを振り返る。 その先には間近に迫る青い瞳が見えて、タイミング良くキスをされたのだと理解した。 柔らかく、けれど軽く触れて、ぺろりと舌を這わせてから離れたそれに慌てて回りを見渡すと、腰を片腕で引き寄せられる。 行為をした後に急いで歩いたせいで、そこはずきずきと痛みを発していた。 「好きだぞ」 「っ…‥」 その言葉に何も言えなくなった俺を見て、彼は身体を離すと同時に指を絡めてくる。 さく、さく、と小さく音を立てながら再開した歩みはゆっくりだった。 彼の半歩後ろを歩く俺の顔は、寒さの為ではなく赤くなっている。 そんなことを言うのは、ずるいよ、イザーク。 END |
後書き ようやくup出来ました。遅くなってしまいすみません。 甘々になったと思うのですが、いかがでしょうか…? 最後の喧嘩はまなの趣味です(笑) これにて、十万打御礼小説は全てupしきりましたが、まだまだ他にも書いていくつもりですので、出来ればこれからもよろしくお願い致します(礼) 皆様あっての電気工事屋です。 今回は本当にありがとうございました。 まな 07.10.05 下はコピーボックスです。自由にお持ち下さい。 転載される際には、 Mail、もしくはweb clapにて一声お声をお掛け下さいませ。 まなの名前さえ入れて下されば、リンクの有無は問いません。 |