晴れたとき 昼食時独特の喧騒から逃れ、アカデミーの敷地内ではありながらあまり人気のない、建物の影に隠れるようにしてぽつりと置かれたベンチに、アスランは一人で座っていた。 片手に持っていた水筒を脇に置き、もう片方の手に持っていたハンカチの包みを膝に置く。 無意識にか、口元に緩く笑みを乗せて彼はそれを解いていた。 中から現れたのは、掌に納まるサイズの塩むすびが四個、ラップに包まれている。 巻かれている海苔は水分でしなびてしまっているが、彼は気にしていないようだった。 実は、そのおむすびは彼のお手製であるのだが、仮にもプラント最高評議会の一議員の息子である彼が、アカデミーでの昼食に、たまにとは言えこんな質素なものを食べているなどと誰が想像出来るだろうか。 当の彼は自分で作ったおむすびを手に取り、それを覆うラップを半分ほど剥がして食べ始めた。 そこへ、雀が一匹だけ舞い降りてくる。 アスランの視線から言えば左斜め前、五十pほど離れた所にその雀は足を付けた。 すぐに彼も気付き、初めてとも言えるかも知れない近さで、まじまじと見つめることになった小さな鳥に双眸を向けながら、おむすびをまた一口頬張る。 口腔内に入ったご飯をもぐもぐと丁寧に噛んでいると、不意にその小鳥が動きを見せた。 とんとん、と小さく跳ね、首を傾げるという愛くるしい仕種をしながら、アスランの前を通り過ぎ、そのまま同じベンチの上に乗ったのだ。 かと思えばそのまま下の花壇に降り、彼の背後、ベンチの後ろを回って再び最初と同じ場所に戻る。 そこでようやく、アスランはこの雀の意図を理解した。 餌が欲しいのか、と内心小さく呟いて一つ目のおむすびを全て食べ終え、二つ目のおむすびのラップを剥ぎにかかる。 その間にも、雀は再びとんとんと地面を蹴って更に彼に近付いていた。 ちょっとした出来心だと自分に言い聞かせるように小さな動作で、彼はおむすびから五粒程ご飯をむしり取る。 そしてそれをぴっと地面に弾くと、雀は素早い動きで近付き啄み始めた。 その様子を見届けてから、彼もおむすびを食べる。 空を見上げれば晴天、吹き抜ける風も人工の物だとはわかっているが、今日ばかりは何と無く優しいものに感じるほど、アスランはリラックスしていた。 三つ目に手を伸ばした時、先程まで米粒を啄んでいたはずの雀と目が合い、思わず彼は、まだ足りないのかと内心呟く。 彼がやった米粒はもうすでに無く、雀が次の餌を望んでいることが伺えたのだ。 とりあえず一口おむすびを食べてから、今さっきのようにご飯をちぎる。 何と無く量が多くなってしまったのを彼自身自覚しながら、それを雀の方に落としてやった。 再びご飯粒を啄み始めた小鳥を一度見遣ってから、アスランは自分の手の中に持ったままのおむすびを食べる。 それを全部胃の中に納めてから彼がそちらを見ると、小鳥はまた次を望むかのように小首を傾げていた。 だが、啄んでいる途中に飛ばしてしまったのか、彼の足元に米粒が一つ残っている。 ラップに包まれたままの最後のおむすびを片手に持ち、少し身体を屈めて片手の指を伸ばした彼は、雀を誘導するかのように指先を揺らして餌が落ちていることを示した。 その動作で気付いたらしい雀が、ぱっと一瞬近付いたと思えば米粒をくちばしに挟んですぐに彼からまた距離を置く。 人に慣れているくせに、やはり恐いものは恐いんだな、と頭の片隅で思いながら四つ目のおむすびのラップを取り、アスランはそれを頬張り始めた。 そして、最後に五粒程取って、雀に分け与える。 どんどん無くなっていくご飯粒を見つめながら水筒を手に持ち、それの蓋になっているコップを外して水筒の注ぎ口を開け、中にお茶を注いだ。 ゆっくりと、けれども確実にお茶を飲み干している間彼は雀から目を離さず、その小鳥は米粒を全て食べ終えて次はないのかと彼を見つめ返していた。 コップの中に少しだけ残ったお茶を右手で地面に捨て、水筒の口を閉めてコップを付ける。 膝の上に散乱したラップをくしゃくしゃに丸める頃になってようやく、雀はもう餌が無いことを悟り、少しアスランから離れた所で何度か右往左往した後で飛び立って行った。 空を舞い、何処かに消えた雀を見送って、アスランはおむすびを包んで来たハンカチを畳む。 それをポケットに入れてラップのゴミを片手に持ち、もう片方の手には水筒を持ってそこを後にした。 END |
後書き まなが体験したことなのですが(笑)アスランさんに置き換えて書いてみました。 いかがでしょうか? けっこう可愛いと思うのですが… 実はこれをイザークさんが上から見ていて、少しきゅんとしているといいなと思います。 明日は誕生日ですのに、全く関係のない話ですみません(汗) まな 07.10.28 |