これは誰の所為


 ずる、と音を立てて自身を引き抜き、イザークはそれにさえ身体を震わせて小さく声を漏らすアスランを上から見下ろした。互いにしっとりと汗を掻き、髪が顔の至る所に張り付いている。明日が休みだからと言って、少々張り切り過ぎたのを否めず小さく笑ってしまいながら、イザークはアスランの口の中に入り込んでしまっている髪の毛を払ってやった。
「先にシャワーを浴びてくる。すぐに戻るから待っていろ。」
 ぼぉっとした様子でただ天井を見つめていたアスランだったが、その彼の言葉には小さく頷いて見せる。激しい情事によって体力を消耗し、もう指先すら動かしたくないとアスランは思った。
 開かれた足を閉じることも出来ず、そのまま目を伏せる彼の髪をくしゃりと撫でて、イザークはベッドを降りる。途端にぐしゃりと踏ん付けてしまった二人分の服に彼は一瞬眉を寄せたが、すぐに気を取り直してシャワールームへ向かった。
 イザークがシャワーを浴び終えて、温かい濡れタオルを作り部屋に戻ると、アスランは両足こそ下ろしているものの、ほとんど先程と同じ体勢でベッドに寝転んでいた。
「大丈夫か?アスラン。」
と、問い掛けながらベッドの上に乗ると、ぎしりと音が立つと共にアスランの身体が揺れる。
「…もう‥動けない…」
 普段よりも掠れて聞こえるその声に小さく息を吐き出してイザークは、乾いた精がこびり付いた彼の腹部をタオルで拭った。
「貴様がもっとと強請ったんだぞ。」
と言えば、
「こんなにしろとは言っていない。」
と返って来る。イザークは可愛くないと眉を顰めて、アスランの片足を持ち上げた。目を閉じてされるがままになっている彼をちらりと見上げ、汚れた内股から自身へ向けてするするとタオルを這わせて行く。
「っ、イザーク。」
 途端に、咎めるように名前を呼んだ声に目を細めて、イザークは濡れタオルで彼の自身を包み、片手を先程まで繋がっていた箇所へと伸ばした。動かない身体に鞭打つように身を捩るアスランの開かれた瞳を、意地悪な光を宿した青い瞳が覗き込む。そのまま自身を擦られて、アスランはか細い声を上げた。
「ぁ、ゃめ…」
 ぴく、と肩が揺れ、腕が重力に逆らって持ち上げられる。しっかりとイザークの肩を掴んで、その手は動きを止めた。
 イザークは秘部に伸ばした指でゆっくりと入口を開かせ、指先に己が放った白濁を絡める。綺麗になった自身からタオルを離して、それを脇に置いた。開放されたアスラン自身は、緩く反応を示して勃ち上がろうとしている。
「中を綺麗にするぞ。」
「んっ、ぁ。」
 淡々とした言葉と共に、ずるずると指が中へ入り込んだ。ぎゅっと目を閉じて頬を上気させるアスランに小さく笑い、イザークは触れるだけの口付けを贈る。奥まで押し込んだ指の腹を、ひくつく内壁に擦り付けるように抜き差ししながら精を掻き出す度、耐え切れずに漏れる声が、イザークの耳に届いた。
 中を綺麗にし終わっても、その指は出て行こうとしない。アスランは業を煮やしたように、もうイかせてくれとイザークに告げた。
「また腹が汚れても知らんぞ。」
と言って笑うイザークを濡れた瞳で睨み上げ、彼は早くと急かす。その表情に口角を上げて指を引き抜き、イザークは再び彼の自身を手中に納めた。
「っぁ…」
 びく、と震えるその肢体に愛しげに目元を緩めて、先端から溢れ出る先走りをその窪みに塗り付けるように指を動かす。途端に先走りの量を増やしたそこから手を離して全体を握り込み、手で輪を作って擦ると、雁首にその指が当たり、アスランは射精を促すような動きに髪を散らして、強くシーツを掴み背中を浮かせた。
「ん、ぅ、あ…っ、っく…!」
 身体が強張り、一瞬の間を置いて白濁が吐き出される。手の中に放たれたそれを、もうすでに冷たくなってしまったタオルで拭い、彼の自身も綺麗に拭くと、イザークはそれをベッドの下に落として、彼の隣に寝転がった。はぁ、はぁ、と荒い息を繰り返してぐったりとするアスランの身体に腕を回して、その耳元に唇を寄せる。
「愛しているぞ、アスラン。おやすみ。」
 そっと囁き掛けると、伏せられていた目蓋が持ち上がった。ゆっくりと身体を動かして寝返りを打ち、イザークと向き合う形にしておいてから、アスランは首を振る。
「嫌だ…まだ寝ない。」
 思いも寄らぬ返答に眉を寄せながらも、イザークは彼の身体を抱き締め直した。
「…そんなに眠たそうな顔をして、何を言っている。」
 寝ろ、と低い声で告げても、彼は首を振るだけだ。
 怪訝そうなイザークの表情に眉を顰めて、アスランは少し視線を下に伏せる。自分の身体や心はこんなにも余裕が無いと言うのに、目の前の恋人は気持ちでも身体でも余裕があるように思えて、悔しかった。
「…とにかく、まだ寝ない。」
「アスラン…」
 小さく息が吐かれる音と共に、アスランはイザークの腕に頭を抱え込まれ、その胸元に顔を押し付けさせられた。暖かさに脳内が痺れを帯びたように思考は麻痺し、眠気が一気に襲ってくる。だが、アスランは小さく身を捩り、落ちそうになる目蓋を押し上げてイザークを睨み付けた。
「何か怒っているのか?」
とイザークが問い掛けると、彼は別に、と呟いて胸元に顔を埋め直す。
「あぁ…まだ俺と話していたいのか。」
 ふと思い付いて、イザークが再びアスランに声を掛けた。ぴく、と小さく肩が跳ね、瞳がイザークを捉える。彼は図星かと口角を上げて、アスランの髪に指を通した。
「心配するな。貴様が起きるまで隣に居る。」
 その言葉に、アスランの手がイザークの腕を緩く掴む。自分の心までも見透かされ、更に悔しさを感じて、アスランはそれを隠すように彼の胸に顔を押し付けた。そして、何の反応も示していない彼の胸の飾りを甘噛みする。
「っ、貴様…!」
 思わず息を詰めたイザークにくすりと笑って肩に頬を擦り寄せ、アスランは目を伏せた。
「…おやすみ、イザーク。」
「……。」
 いつかまた、違う仕返しをしてやろうと思いながら、彼はそのままに眠りに着く。紺色の髪に鼻先を寄せながら、イザークは何をして返してやろうかと考えていた。




END




後書き


甘々です。
何だか突然書きたくなってしまいまして…
胸を噛まれて驚いているイザークさんを笑ってやって下さい(笑)


まな
07.12.07