ようやく彼が顔を上げたことで、アスランは安堵の表情を浮かべたのだが、睨んでくる青い瞳と、いつもよりも低く言葉を呟いた声に、その表情は瞬時に強張った。ぴん、と張り詰めたような空気を、足先の体温を奪っていく冷たいフローリングが助長する。イザーク、と小さく呟いた唇に噛み付くようにキスをして、イザークは彼の身体を壁に向けて押し付けた。 「んっ…!」 無理に後ろを向かせられる首に痛みを感じて、顔を歪める彼に構わず、そのまま舌を押し入れる。壁に手をついてそこから離れようともがくアスランの手から、持っていたコートがばさりと音を立てて床に落ちた。その抵抗を更に強い力で押さえ込まれ、徐々に息が荒くなる。 「んっ、ん…っ、イザ…!」 絡められた舌をきつく吸われ、両足の間に背後から膝が割り込んできた。くぐもった声が口端から漏れたが、それもすぐに角度を変えて口付けてくるイザークの口内に吸い込まれる。 首を振って逃れようとするアスランの顎を強く掴み、無理矢理口を開かせた。舌を噛んでやろうと思った矢先にそれを阻まれて、アスランはきつく眉を寄せる。割り込んでいた膝が、ぐっと彼の自身を押し上げ、そのまま刺激を与え始めた。 スキンシップがすこしはげしいです 「ふっ、は…」 下肢と口付けに気を取られて次第に力の抜け始めた身体に目を細め、イザークは唇を離す。暴れた事と、深い口付けが長く続いた事が相俟って、アスランの息は上がってしまっていた。唾液で口端を濡らし、頬を上気させて忙しなく呼吸を繰り返す彼の、いつもよりも潤んだ瞳をじっと見つめた後で、掴んでいた顎から手を離し、その手を腰元に移して軍服の合わせを開かせる。バックルが小さく音を立てて軍服の脇からぶら下がり、それが外されてしまったことをアスランに伝えた。 「っ、イザーク…」 止めてくれ、と小さく訴えて背後のイザークを見るが、彼は怪訝そうな顔をして返すだけだ。そのままインナーの中に入り込んできた手が胸の尖りを捉え、アスランは唇の隙間から息を逃がす。声を出すまいと口で大きく息をしている彼の意図を封じるように、尖りに爪が立てられた。詰まる息と跳ねた身体に満足げに口角を上げて、イザークはそこを指先で摘み上げる。くにくにと揉み込むように指先を擦り合わせると、白い耳が熱を帯びて赤く染まった。 「っ…は…、イザーク‥止めろ…」 壁に額を押し付け、何とか身体を離させようとアスランがもがく。今だ抵抗を続ける姿に鋭く舌打ちをして、イザークは彼のスラックスからベルトを抜き取り、両腕を取って背面で縛った。荒々しいその手つきと、最近は成りを潜めていた乱暴な行為に、アスランの身体が強張る。 「調子に乗るなよ…久しぶりに泊まりがけで来てやったと言うのにキスすらさせず、おまけに遅く帰宅した理由がキラ・ヤマトだと!?」 低く地を這うような声が、だんだんと興奮を帯びて荒くなる。吐き捨てるような言葉に、アスランはようやく合点がいった。この恋人はただ、自分に毎日会える幼なじみに嫉妬をしているのだと。 「‥イザーク。」 「何だ!!」 「俺が愛しているのは…お前だけだ。」 普段はすんなりと出て来ない言葉も、こういう状況、いや、アスランから見てイザークが幼く見える状態ならば、さらりと口に出来ることが、アスラン自身不思議でならなかった。子供がお気に入りの玩具を取り上げられた時に、駄々をこねて親に訴える様子によく似ていると彼は思ったのだ。育ってしまって可愛いげは無いが、未だ十代であるが故に、互いに大人に成り切れていない部分は多々ある。 アスランが告げた言葉は効果覿面であったようで、イザークはぴたりと動きを止めた後、ぎゅっと彼に抱き着いてその項に顔を埋めた。 「…イザーク…?」 「…俺も愛している。」 「あぁ…知ってるよ。」 腕は拘束されたままだと言うのに、思わず口元を緩めてアスランは言う。そんな彼の項をきつく吸い上げて痕を残し、イザークはスラックスの前を緩め始めた。 「っ…おい‥イザーク。」 アスランは丸く納めたつもりでいた為、再び行為を再開し始めた彼に戸惑う。だが、彼の手はお構いなしにスラックスと下着をずり下げて下肢を曝させ、未だ柔らかい自身を直接握り込んだ。 「なっ…!止め…っ、ぁ…」 自身を扱く手に身を捩って逃れようとするが、膝にスラックスと下着が纏わり付き、腕は拘束されている。良い箇所を的確に擦って刺激を与えてくる手の中で、アスランの意に反して徐々に自身は勃起し、先端から先走りを滲ませていた。か細い喘ぎが唇から漏れるのを嫌い、大きく息をしてその声をごまかそうとする。肩と額を壁に押し付けて支えていた身体は次第に位置を下げ、イザークは片腕を腹部に回してその身体を抱き締めた。そのまま床に腰を下ろさせて背後から抱き抱える形に持ち込み、自身を扱く手の動きを激しくする。 「は…っ、はぁ…は…ぃ‥ゃだ…イザ‥」 「…声を出せ。」 ぐちゅぐちゅと、手を動かす度に響く粘着質な音と、アスランの荒い息が二人の鼓膜を揺らす。互いに、互いが告げる言葉に耳を貸すことは無く、どうにかして自分の思う通りにしようと二人は足掻いた。 イザークの手がアスラン自身の先端を強く擦り、吐精を促そうとする。びくんとしなる身体にイザークは目を細め、蜜口にぐっと爪を食い込ませた。 「くぁ…っ、は、っ――…!」 快感に抗うように強く床を擦っていた足が動きを止め、痙攣するように微かに震える。同時に手中に吐き出された精を指に絡めて、その手を双玉の更に下へと忍ばせた。スラックスが絡まったままの足を片方、太腿を掴んで引っ張り、完全にスラックスから抜かせる。そうして大きく股を広げさせると、アスランは吐精したばかりで気怠い身体を捩って緩く首を振った。 「イザーク…っ、嫌だ‥」 忙しなく繰り返される呼吸に乗せて、絞り出したような声でイザークに訴える。だが彼の手は、そんなことは聞こえないとでも言いたげに秘部の周りを辿り、その入口にアスランの吐き出した精を塗り込めた。ぞわぞわと何かが這い上がってくるような感覚を腰から背筋に感じて、ぴくりと小さく肩が揺れる。何度も撫で回されると次第にそこはひくりと戦慄き、イザークの指に吸い付いた。一週間と少しぶりに触れた襞の感触にイザークは口元を緩め、指先に力を込めてゆっくりと中に押し込んで行く。 「ん…っ‥」 「…慣れるのが早くなったようだな、アスラン。」 指が内壁を割りながら中へ中へと入ってくる圧迫感に強張っていた身体が、その言葉によって更に熱を上げた。きゅっと収縮した内壁に小さく喉を鳴らして笑い、指を折り曲げる。指に付いた精液が濡れた音を立て、爪が側壁を引っ掻いた。 「っぁ…は‥」 その刺激に身体を跳ねさせながらも尚、声を耐えようとするアスランにイザークは眉を寄せる。指を一度引き抜いて二本にし、ぬるぬると抜き差ししては内壁を濡らしていった。指が引き抜かれる度に、勝手に襞がそれに吸い付き、排泄にも似た快感を与えられる。指を動かすのに合わせて、ぴくん、ぴくん、と微かに揺れる身体の中心で、再び熱を持ち始めている自身を発見し、イザークは目を細めた。中で指を開くと、水分によって張り付いていたものが剥がされるような、卑猥な音が響く。 「…おい、アスラン…もう挿れるぞ。」 目を閉じ、声を耐える為に大きく息をすることに一生懸命になっているアスランの耳元で、掠れた声で囁き掛ける。スラックスの下で苦しげに膨らんだ自身を腰に擦り付け、蕾の中から指を引き抜いてするりと双玉を撫で上げた。煽るようなイザークの動作にひく、と、背筋を震わせてアスランは頭を振る。しかし、力の入らない身体を反転させられ、両足を抱えられるともう、覚悟を決めるしかなかった。フローリングに押し付けられる両腕に、自重が掛かって痛みを発する。じん、としたそれが警戒音のように聞こえた。明日は休まなければいけないかも知れない、と他人事のように思いながら、アスランは今正に自身を挿入しようとしているイザークを睨み上げる。 「抵抗するのは止めたようだな。」 その視線に気付いて濡れた翡翠を見つめ返し、自らが抵抗の手段を断ったというのにいけしゃあしゃあとイザークは言った。笑い出してしまいそうなその表情から苦々しげに顔を背けたアスランの顎を捕らえ、ぐっとこちらを向かせる。きつく寄せられた眉の間、深く皺の刻まれた眉間に唇を寄せて、小さく音を立てた。 「っ…イザ‥ァ、ひ…ッ!」 唇の感触に、思わず安堵したような声でアスランが名前を呟いた途端、止まっていた挿入の動きは再開され、入口を押し広げて中にのめり込んでくる男精器が彼の身体を圧迫する。その感覚に悲鳴のような声を上げてのけ反る肢体と、痛みに歪み揺れる瞳は、眩暈を覚える程に煽情的だ。ぽろ、と一玉落ちた涙を舌で掬い上げながらも、熱く締まる内壁に自身を飲み込まれていく快感には抗え無い。抗う気も無いイザークの自身は、やがて全てアスランの身体の中に納まり、どくどくと脈打っていた。 「っ…アスラン‥」 「はぁ…ッ、ぁ…ぅ、動くな…!」 愛しげに名前を呼ぶ声に強く目を閉じ、身じろぐように少し身体を動かした彼に抗議する。熱い楔が少し粘膜を擦っただけだというのに、耐え難い痺れが背筋を走った。 唇を噛み、引き締まった腹部を上下させながら、それに対抗しようとするアスランを、イザークはじっと見つめる。このまま動けば、身体の下敷きになってしまっている腕は床との摩擦で怪我を負い、軍服も擦れてその生地を薄くし、汚れるだろうことは目に見えていた。だが、今更場所を移すことなど考えられない。せめて彼が挿入の衝撃に慣れるまでは待とうと思いイザークは動きを止めたが、体勢を整える為に少し動いただけで、勃ち上がらせた自身の先端からぷくりと先走りを滲ませ、それを根本へ伝わせる様子を見ていては我慢も限界と言うものだ。 「…もう待てん。」 短く告げて、一気に腰を振る。床についた膝が擦れて痛みを訴えたが、そんなものは快楽の前で塵となって消えた。楔の亀頭からだらし無く漏れる先走りが内壁を濡らし、滑りを良くする。奥歯を食い縛って喉を反らせるアスランの両足を抱え込み、イザークは声を出させようと躍起になった。がつがつと貪り尽くすように腰を使い、奥にある前立腺を先端で押し潰す。 「っ、っ…!ぁ、くッ‥っ…」 綻びを露にし始めた守りを一気に突き崩し、揺さ振られるままに空を掻く足を片方、肩に担ぎ上げた。それだけで前立腺を突く角度が変わり、更に深くまで身体の中を暴く楔に、びくんと背中を反らせてついに喘ぎ声を上げる。 「ぁあ…ッ、あ、あ、ァ…っ。」 熱に溶けたように弛緩する表情と浮される瞳とは違い、内壁はきつく楔を締め付けた。それを自覚しながらも、唾液は溢れて飲み込み切れず、無情にも口端から流れ出していく。噛み締めていた唇を噛み直そうとするが、上手くはいかなかった。切れ切れに意味も無い声を漏らし続けながら、アスランはこの行為の気持ち良さを改めて知る。抵抗していた事自体が馬鹿だったような気さえする程の快楽に、脳が飲み込まれるのを感じた。次第に腰が浮き、自ら前立腺へと亀頭を導くように揺れ始める。任務など、もはやどうでもよくなっていた。 「イザ、ぁ、イザーク…っあ、ひぁ…ッ、ぁんっ‥」 「アスラン…ッ。」 甘く名前を紡ぐ声と、下肢からぐちゅ、と響く音が互いの聴覚を犯す。やはり俺はこいつが好きで、どうしようもないのだという想いが脳内を巡った。 肩に担いでいた足を離して身体を前に倒し、互いの胸を合わせて下肢をぴったりと押し付ける。イザークの体重も受けることになったアスランの腕はすでに感覚を無くし、床に擦れて赤くなっていたが、そんなことなどお構い無しに彼は小刻みに腰を動かし、自身の全長で粘膜を擦り立てた。獣の交わりのように強く、乱暴に前立腺を突き上げられ、アスランは床に後頭部を擦り付ける。同時に反り返った喉に吸い付かれ、唇はそこに赤い痕を残した。 「はぁっ、あ、ぁあ…!も、で…ッァ、あ…」 膨れ上がった自身をイザークの服で擦られ、一気に射精が近付く。腰を振って互いを高め続けながら、イザークもこくりと頷いて了承を示した。まともな言葉など、二人共紡げはしない。 「く…っ‥」 「…あぁッ、あ…ッ!!」 小さく喉が鳴らされる音に少し目蓋を押し上げたアスランの瞳に、熱に浮かされたようなイザークの顔が映った。目を閉じて一心不乱に腰を使うその表情にぞくぞくとして、一歩先にアスランが達する。今日二度目だというのに濃さを失わないそれで互いの腹部を汚しながら、きつく身体を強張らせてびくびくと足を痙攣させた。その締め付けに自身を強く絡め取られ、イザークは荒く息を吐いて背中を震わせる。一番奥に楔を捩込み、そこで熱を弾けさせた。体内に注がれる精液の熱さに、赤く唾液に塗れた唇から吐息が漏れる。 「ん、は…っ‥」 イザークは萎えた自身を引き抜き、どくどくと脈打つ心臓を重ね合わせるように強く、アスランを抱き締めた。 「っ…愛している、アスラン…」 整わない息のせいで、腹部が忙しなく上下する。互いの荒い呼吸のみが制する部屋の中で、二人を邪魔するものは無かった。 遅くなってしまった夕食の席に着きながら、シャワーを浴びている間もずっと痛みを発していた腕を、アスランは軽く摩る。手の甲は、床との摩擦のせいで真っ赤になり、所々薄皮が禿げていた。下肢に感じる違和感とその怪我に、やはりするんじゃなかったと後悔するアスランの隣で、イザークは至って満足げな顔をしている。 「一度ではやはり物足りん…アスラン、明日もするぞ。」 「……馬鹿イザーク…」 「その傷は、後で手当してやる。貴様も良かった癖に、ごちゃごちゃ言うな。」 ぴしゃりと言いながら、自らが作ったスープを啜るイザークを軽く睨んで、アスランも諦めたようにスプーンを取る。何度かスープを口に運んだ後でフォークを手に持つと、不意に脇から伸びてきた腕に気が付いた。食事中だと言うのに、それを邪魔するかのように身体に回る腕と、頬に触れる唇に、アスランは眉を寄せてそちらを見遣る。 ときどきあまえんぼうになります 「…本当に愛しているぞ、アスラン。」 「な…っ…」 睨み付けて身体を離させようと思った矢先、小さく落とされた言葉に動きが止まってしまう。目を向けた先の瞳は、本当に愛しいのだと言いたげに細められ、すり、と頬を擦り合わせられた。俺も、と返すしかない空気になっているような気がして、アスランは頬を薄く染める。 「……俺もだ。」 その言葉が耳に届いた途端に顔を離し、イザークは不満げに彼を見つめた。並べられた料理は未だ、温かいことを示す湯気を立ち上らせている。 「…愛していると言え。」 「…‥煩い。」 イザークの長期休暇は、まだ始まったばかりだ。 END |
後書き お借りしたお題はこちらです。 猛獣の飼い方10の基本 あるていどのきけんをかくごしましょう じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう せをむけてはいけません むりにいうことをきかせようとしてはいけません あまやかしすぎはいけません なつくとたのもしいそんざいです いがいときずつきやすいいきものです きちんとききかんりをしましょう スキンシップがすこしはげしいです ときどきあまえんぼうになります このお題はリライト様で配布しております。リンク済みですが、是非行ってみて下さい。とても素敵です…! かなり長くなってしまいました…製作期間も長くなりましたが、全体的には結構満足しています。 私的には、アスランさんの身体に感じ入っているイザークさんが書けられて良かったです(笑) ただ、二ラウンドくらい書きたかったのですがね…若い二人が一回だなんて… あ、それから、紫陽花の花言葉は色々ありますが、まなとしては傲慢を選びました。 機会がありましたら見てみて下さい。面白いですよ。 ここまで読んで下さりありがとうございました! まな 08.01.23 |