知っているか?
何だ、突然。
地球の空の色は、海の色が反射で映っているんだってな。
…だから、どうした。
お前の目は空の青で、俺の目は海の碧だったらいい、と思ったんだ。
はぁ?
…‥俺が、お前の大元だったらいいのにという話だ。
俺の方が先に生まれている。
……そういう意味じゃ無い。
…冗談だ。

「「…愛している。」」


寝返り


 突然、はっと、何の前触れも無く目が覚め、俺は真っ暗な中にぼんやりと見て取れる、未だに慣れない天井を見上げた。何と無く気分が悪いのは、つい先程まで見ていた夢のせいだろう。
 片手の甲を額に当て、はぁ、と息を吐いてから、隣に人が寝ているのを思い出した。自分よりも体格の良い男性、彼を、起こしてしまわなかっただろうかと横目に見遣る。だが、心配する必要も無かったかのように、彼はぐっすりと眠っているようだった。額に掛かる短い金髪の少し下の、今は伏せられている目蓋を二秒間凝視してから、視線を天井に戻す。あの瞳で見つめられるのは、酷く苦手だった。
 布団の中から腕を出している事に寒さを感じ、額から甲を離す。裸なのだから寒いのは当たり前で、俺は布団に潜り直した。
 今でも、目立つのを承知であの赤い軍服を着ている俺を、咎める者は居ない。だが、内心どう思っているかは知れ無かった。
 それから、この行為も。
 隣で寝ている彼との間に、何かしら、愛やらが芽生えた訳では無かった。ただ、互いに熱を持て余していたから。俺はそれを隠しているつもりだったのだが、目の前の人物に上手い具合に嵌められた、という表現は的確かもしれない。そう、結局流されて、こういう事態に陥ってしまったのだ。俺自身、特に抵抗をした訳でも無いが、あの瞳に見つめられると、上手く抗え無かったのも事実だ。それから、こうして時折、互いの熱を発散させている。
 人間は、自分が死ぬかもしれない時を感じると、種の保存欲が高まるのだそうだ。種の保存、等と言うと聞こえは良いが、性欲と代わり無い。しかも俺は、雄としてそれを処理するのでは無く、雌の立場として処理していた。軍ではよくある事だが、本人は複雑だ。やはり俺は、男であるのだし。
「…眠れないのか?」
「ぇ…」
 不意に横から聞こえた声に、驚いてそちらを見る。先程まで眠っていたはずだったのに、彼は青い瞳を暗闇に浮かび上がらせてこちらを見ていた。
「イザーク、って寝言で目が覚めちまってね。」
「っ…‥」
 するつもりなど無かったというのに、その名前と、自分が無意識に口にしてしまっていたらしい事実に、つい動揺してしまった。感情を表に出すことを嫌う俺の性格をすでに心得ている彼は、ふっと鼻で笑って身体を起こし、ベッドに肘をついて上体を支えながら見下ろしてくる。何も答えずに、苦手な瞳から目を逸らす為に顔を背けた。
 だが、
「妬けるねぇ、彼氏?」
揶揄するように問い掛けながら、顎を掴まれて引き戻される。彼氏、とわざわざ言われて、顔が歪むのが自分でもわかった。
「…違います。適当なことを、言わないで下さい。」
「あーらら、嫌われちゃった?」
 笑う声が、今は何処までも不快に感じて、青い瞳を睨み上げる。たがそれも、直ぐに逸らしてしまった。やはり、その色は苦手だ。
「こっちを見な、アスラン。」
 酷く楽しげな声がするが、表情を変えたつもりは無い。実際、変わっていないのは自分の顔の筋肉が動いていない事でわかっていた。
「…何ですか、」
 声に釣られてちら、とそちらを見遣るが、目の前を掌で覆われ、唇を重ねられる。当然、視界は真っ暗になってしまい、相手の動きが目で見えなくなった。何をするつもりだと、問う間も無く舌がぬるりと滑り込んでくる。そのまま、絡み付いてくる舌を拒みはしなかった。だが、キスにあまり意味を見出だせず、少し間を置いてから彼の肩に手を当てて押し返す。
「キスは嫌いか?もっと凄い事をするのは、好きなのに?」
「…恋人じゃ、ありませんから。」
 そのままの流れで身体を起こすと、若いねぇと感慨深く言われた。そういうものでは無いと視線で返し、全裸であるのもかまわずにベッドから出る。机の上に置いておいたボトルに手を伸ばして口内に水を流し込むと、背後から揶揄するような声が投げられた。
「何度見ても、いい身体。」
 ずっと暗闇の中でいたせいか、彼も大分目が慣れているらしい。その発言の仕方に思わず眉を顰めて、ボトルの口を少し唇から離した。
「…そう、大差ないですよ。」
 呟くように告げ、更に喉を潤そうと再びボトルに口付けて傾ける。だが、
「いーや、やっぱりこの…」
「っ…!?」
当然聞こえた背後からの声と、現れた気配に身体が強張った。いつの間にか真後ろに回っていた彼に、ぐっと臀部を鷲掴まれて息が詰まる。咄嗟にボトルを、勢い良く机に置くが、飲み切れなかった水は口端から溢れてしまった。首筋を伝って身体を濡らすそれの冷たさに顔が歪む。
「尻の感じとか?若さが滲み出てるじゃないの。」
「少佐…」
 ぐにぐにと揉みしだいてくる手を掴み、背後の彼を軽く睨み付けた。感じる訳では無いが、発展しては困る。今はもう、いい加減に眠らなければ辛い時間になっているはずだ。咎めるように名前を呼んでも、彼は全く気になっていないようだったが。
 もう片方の手が、するりと前に回って茂みに隠れた柔らかい自身に触れる。思わず肩が揺れた。先端を指先で揉み込んでくる動きに息が詰まり、身を捩りながら手で彼の身体を押して離れようとする。だが、今回は先程のキスとは違い、彼も直ぐには引かなかった。まぁまぁ、何て俺を宥めて、彼の短い爪が先端の窪みに宛がわれる。そこは、駄目だ。
「っぁ…!止め…っ…」
 徐々に張り始めた自身を、彼も当然掌で感じたのだろう、背後で小さく笑われる。項に吐息が触れたと思えば、次にそこに触れたのは薄い唇の感触。痕を付けられる、と思い、本当に力を込めて抵抗した。
 身体が離れると同時に振り返って、彼に向き直る。少し心臓の鼓動が乱れ、体温の上昇を感じているのは、股間で熱を持ってしまった自身のせいだ。俺の様子に肩を竦めて見せた彼が、間を詰めて腰を抱いてくる。
「痕は付けるなって?注文が多いぜ、坊主。」
「っ…」
「こんなに白いんだからさ、絶対赤は似合うと思うんだけど。」
「…‥貴方のものに、なった覚えもありませんから。」
 ぐっと唇が近付く。顔を背けて拒否を示しながら身体を捻るが、自身に指を絡められると快感を追う方が強まった。釣れないねぇ、と、わざとらしく言う声にそちらを睨み上げる。背後では再び、手が臀部に伸ばされているのがわかった。先程のように肉を掴むのでは無く、その更に奥に、目的を持って指が入り込む。
「しょ、さ…ッ。」
 そこに触れられては、止められたはずのものも止められなくなってしまう。止めてくれと訴えるが、前では先走りを零し始めた自身を扱かれて、鼻に掛かった声が漏れた。
「気持ち良いんだろう?痕は付けないから、付き合ってよ。」
「く‥っ…」
 乾いた指が体内に埋め込まれる感覚に諦めて、逞しい首に腕を回す。しがみついて身体を支える俺にふ…と笑い、彼は指を抜いて俺の身体を抱き上げた。はっとしてそちらを見遣ると、少し高揚した瞳と目が合う。その瞳だけは、何故、そんなにも。
「お前さんは、俺に誰を重ねてんのかね?」
「フ、ラガ…少佐…」
 まさか、気付かれていたとは。動揺が胸に走り、それ以上言うなと目で訴える。だが彼は、
「例えば…イザーク…とか?」
と、にやりとした独特の笑みを浮かべて問い掛けて来た。憎々しく思って顔を背けると、頬に口付けられる。そのままベッドに身体を横たわらせられ、彼は当然のように俺の上に被さった。図星?と追い討ちを掛ける彼に咄嗟に首を振って返すが、それをちゃんとした答えとして認識していないのは雰囲気でわかる。
 それ以上、彼がそのことを追及することは無かった。熱い自身に骨張った指が触れ、後ろではズルズルと体内に侵入して来るともう、互いに欲を解消する事が優先される。指が届く限界は知っているはずなのだが、何処までも入って来るかのようだと何時も思っていた。その爪先が、内壁をからかうかのように引っ掻いてくる。身体が震え、つい数時間前に欲を受け入れたばかりのそこは戦慄いた。
「はっ…ん‥」
「アスラン…」
 耳元で名前を呼ばれ、瞳を開く。知らぬ間に目を閉じて俺は、彼奴にされている感覚に陥っていた。そんな自分に驚き、目の前の人物の首に腕を回して強く抱き着く。そして、誤魔化すように、
「…も、挿れ‥て、下さい…」
と告げた。みっとも無く上がった息は耳障りだったが、言葉は伝わったはずだ。耳元で笑う吐息が耳殻に触れ、次いでそこをぱくりと食まれる。ん、と漏れた息と共に目を閉じると、舌が外耳道に入り込んだ。濡れた感触に、ぞわりと背筋が浮く。舌を抜き差しするのと同時に、下肢でも指を抜き差しされて、俺は首を振った。だが、それでも彼は耳から離れない。
「ゃ、…ぃ‥っく…ぁ、あ…ッ。」
 喘ぎに混ぜて、挑発するように彼奴の名前を呼んでみた。すると、
「…わざと、だろ。」
と言われ、耳から舌が抜け出て、下肢からも指が引き抜かれる。
「今からは俺の名前だけ呼べよ、アスラン?でないと…」
 耳朶に寄せてぼそぼそと囁かれる声は直接腰を刺激したが、首に回した腕から少し力を抜いてそちらを見た。
「…なん、ですか…?」
 俺が、誰を呼ぼうが貴方の知った事では無いと思いながら、じっと青い瞳を睨む。だが、吸い込まれそうになって止めた。固く目を閉じて、続く言葉を待つ。
「…いや、何でも。」
「少佐…?」
 珍しく歯切れの悪い彼を不審に思って少し目蓋を開けば、それを留めるように、先程のように目元を掌で覆われた。思わず口を閉じて、言葉を放たないようにする。
 唐突に、下肢に触れた硬い物は、とても熱かった。
「っ…ぅあ‥ッ!!」
 そのまま、もう片方の手で腰を引き寄せられる事により、彼の自身は俺の体内に入って来た。流石の衝撃に背中を反らせると、手は目元から離れて片手と同じように腰を掴む。太い彼のものが、内壁を広げながら更に奥まで侵入した。
 ここまで来るともう、彼奴の影が勝手に彼に被さる事は無い。襞で感じる太さも形も、全く違うからと言う下品な理由だったが、俺にはそれで良かった。彼奴を思い出す事が間違っている。
「動くぞ…」
「ん、ぁ…ッ、あっ。」
 両足を抱えて左右に広げられ、首から頭に腕を移して短い金髪に指を絡めた。律動を開始した彼に、前立腺を突かれて仰け反る。痛い程の快感が突き抜け、下肢に力が篭った。同時に喉を詰まらせた彼の自身が、一回りその太さを増す。隙間無く彼を咥えるそこを押し広げられる苦しさに涙が滲んだが、早い間隔で強く前立腺を突かれれば快感に変わった。彼が体内に漏らす先走りで、ぐちゃぐちゃと音が立ち始める。
「アッ、ぁ、そこ‥もう…ッ。」
「…っ、相変わらず‥締まるな。」
「そこ、ゃ…ッ、ひっ、ぁ。」
 張り詰めた自身は痛い程に主張しているが、まだ彼が達する様子は無い。前立腺への刺激を止めるよう訴えているのに、彼は全く聞いていないかのように振る舞った。
 全身が揺さ振られ、ベッドもギシギシと音を立てている。下肢を密着させて更に奥へ入り込もうとした先端は、前立腺を今までよりも強く押すに留まったが、その刺激で俺は達した。
「ぁあッ、っ、ぁ…っ?」
 いや、達しそうになったのだが、それは彼の手によって止められている事に気付いた。何故、と思い顔を見遣るが、瞳から苦痛の涙が零れるせいで視界が滲んでいる。
「は、離…っ、ゃあ…ッ。」
「挑発したのは、お前さんだろう?」
 その言葉に眉を顰めて彼の髪をくっと引っ張ると、吐息で笑われた。彼の眉も寄っているように見えるのは、ひくひくと戦慄く内壁に、確かに快感を感じているからなのだろう。大きな掌が俺の自身を強く押さえたまま、腰の動きは再開された。
「っ、くぁ、は…ぁッ、あ…」
 自身を高める為に動く彼の動きに合わせて揺れる身体をどうにも出来ず、射精を止められているせいで溢れる涙を頬に伝わせる。髪がそこに張り付き、濡れるのを感じた。早く達したくて筋肉に力を込めると、上で彼が呻いた、ような気がした。
「ほら、イけ…」
 少し上擦った、何時もと違い余裕の少ない声と、根元を塞き止めていたはずの掌に、今度は自身を擦り上げられて性急に促される。足先が、普段からは考えられない程に強張り、背中が弓なりに仰け反った。毟り取ってしまいそうなくらいに力を込めて、彼の髪を握り締める。
「ぁ、あ…ッ!!」
 おまけに前立腺を貫かれ、俺は彼の手の中に精を放った。それから少しの間を置いて、身体の中に吐き出される熱を感じる。体内を満たして行くそれに、眉を寄せながら身体から力を抜いて、震える指を髪から離す。ぬちゃ、と音を響かせて自身を引き抜く彼を見上げて、流石にまだ整わない息をどうにかするべく、自分の頬に張り付く髪を軽く払った。
「…もう、寝かせて下さい…」
 言うと、彼が笑ったような気がした。それを視界に捉えられ無かったのは、重くなる目蓋に抗う事が出来無かったからだ。すっ、と堕ちて行く意識の端で、彼奴の顔を見たのは気のせいでは無い。
 だが今更、彼奴の元に戻ろう等とは思っていなかった。俺は、全てを捨てて寝返ったのだから。




END





後書き


フラガさんはアスランさんのことをどう思っているのか…とかは書きません。ここで終わり!です。
宣言しておかないと書きかねないので…(汗)

しかしフラアス…驚かれた方もいらっしゃるのではないのでしょうか?
私は随分と前から書きたくてですね…!
体格差萌えます。

あ、一番上の色がどうのっていうのは迷信ですから、信じちゃダメですよ…!?(信じないですから)


まな
08.02.19