唇に触れる柔らかな感触は幸せ過ぎて、僕の思考を掻き乱す。繋ぎ合った手から互いに通う熱は温かくて、涙が零れそうになった。触れ合わせるだけで満足。それ以上は何も要らなくて、そっと顔を離した。二人して照れ臭くて、笑ってしまったのも幸せ。
 大好きだよ、アスラン。


今日の今は


 隣で眠る君との距離は、0。僕よりも大きいくせに、僕の胸元に顔を寄せて眠る君の寝顔があまりにも可愛くて、むらっとくる何かを感じたのは気のせいだということにしたい。
 これ以上近付いていいのか、僕にはわからなかったから。君が僕を好きだと言ってくれてから、何度も唇を重ねたけど、それはいつも触れ合わせるだけのものだった。悪戯に啄んでみることはあっても、舌を差し入れることは無い。君を抱きたいと言ったら、君はどう思うかな。驚く?軽蔑する?それとも、わかったと言って頷いてくれたりしちゃうのかな。
「…アスラン…」
 教えてよ、君は…僕に抱かれてくれる?
 柔らかな青い髪に指を絡めて梳くと、アスランは反応して小さく喉を鳴らしながらも、穏やかに寝息を立て続ける。その姿は、存在は、僕にとって唯一無二の者。幸せの形。起こさない程度に力を込めて抱き締める。全身で感じる体温は、僕に安堵を与えてくれた。
 君が隣に居ることが、こんなにも幸せだったなんて知らなかった。


 いつも、アスランが眠るのを見届けてから眠りに着く僕は、起きるのも当然アスランより遅い。軽く身体を揺さ振られて、もう少し、何て唸りながら布団に潜り込むと、その布団を取り上げられてしまった。
「キラ、今日は出掛けるんだろう?早く支度をしないと、遅れるぞ。」
「ん…でも、もう少し…」
 身体を丸めて、起き上がる事に拒否を示すと、全く、何て呆れた声が聞こえて、頬に何かが触れる。それによって急速に意識が浮上し、君の唇が触れたのだと認識して目が覚めた。瞳を開いてそちらを見ると、少し困ったような笑顔の君が、僕の髪をくしゃりと撫でてくる。
「ほら、キラ。」
「…わかった。」
 今日は、ラクスに会う用事があって、カガリに会いにオーブへ降りて来ている彼女に会う為に、オーブ官邸へ行かなければならない。君は、一人で留守番だからそんな顔なのかな。そう思うと、少し可愛い。
「ちゃんとした格好で行くんだぞ?どうせ、カガリやラクスと夕飯も取るんだろう?」
「うん…何で、君は呼ばれて無いのかな…」
 言いながら起き上がって、欠伸を漏らしてからようやく、失言だったと気付いた。すぐ帰ってくるから、とごまかして、君の唇を奪う。ちゅっと音を立てて食むと、控えめに返って来るのが嬉しかった。
「朝ご飯は…?」
「…もう出来ている。」
 ベッドに片膝を乗せて、身を乗り出している君の身体を抱き締める。片手を頭に移して髪に指を絡め、首筋に顔を埋めた。眠気がどっと押し寄せて来て、そのまま意識がふわふわとするのを感じる。
「…ん‥アスラン…」
「…キラ、寝ているぞ。起きろ。」
 肩を掴んで引き剥がされ、温かかった君の熱を感じられ無くなると再び目が覚めた。はぁ、と息を吐く君を見上げて、ごめんと謝りながら眉を下げる。すると君は、少し困ったような顔をしてベッドから下りた。いつまで経っても、僕のこの顔は苦手みたい。その事に嬉しくなる僕は、変なのかもしれないけど。
「…好きだよ、アスラン。」
 唐突な告白に丸くなる君の瞳を見つめながら、僕もベッドから下りる。かぁ、と赤くなる頬に唇を寄せると、その赤みが増して、とても愛おしく思った。
 そんな、幸せな朝から抜け出してオーブ官邸に行ったのに、そこで僕を待っていたのは、信じたくない事実だった。そして、早く戻らなければならないと思った。それでも、ちゃんとラクスの話を全部聞いてからそこを出た僕は偉いと思う。中心街から抜け出した途端、自動操縦になっているエレカを手動に切り替えて、君が待っているだろう我が家に向かってアクセルを踏んだ。
 ラクスがわざわざ僕を呼び出した用件は、戦後の調査でわかったザフト軍内での暴行事件の事。それから、その被害者の中に君がいるという事だった。君の件について証言したのは、イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマン。暴行が行われていたのは知っていたけど、それを指示していたのが上の人間だったから、だから、助けられなかったと。自分達は関与せず、見て見ぬ振りをしていたと言ったらしい。どうして、アスラン。どうして、僕に、それを、言ってくれなかったの。
「ッ、アスラン…」
 苛立って、思わず口の中で君の名前を呼ぶ。こんな話だったから、君は呼ばれなかったんだね。
 キッ、と小さく音を立てて家の前にエレカを停める。急いでいる割には頭は冷静で、ちゃんと鍵を掛けてから玄関に向かった。ポケットの中からカードキーを取り出して、ロックを解除しながら瞳孔認識装置に顔を寄せる。こんな片田舎に、こんなセキュリティは要らなかったかもしれない。認識されるまでの時間を長く感じて、少し焦る。君が、逃げる訳では無いのに。
 ようやく扉が開いて、中に入る。同時に家の中で人が走る音と、扉が閉まる音が聞こえた。
「アスラン…?」
 どうしたのだろう。何処の扉が閉まったのか、何故かピンと来た。何時も家の中を歩く速度と変わらぬ速さで廊下を歩いて、寝室に近付く。ロックが掛かっていることを示す色を点した開閉装置を見て、そっと扉を叩いた。
「ただいま、アスラン。どうしたの?」
 早く。早く。この扉を開けて、アスラン。君を抱き締めさせて、僕に。
 ばたばたとこちらに駆け寄って来る音が聞こえ、少しの間を置いて扉が開いた。予想はついていたけど、何時もよりも熱を帯びた頬と、艶を持つ瞳、それから、慌てたせいでごみ箱の中に入らず、丸められたまま床に転がっているティッシュを見て確信する。
「お帰り、キラ。早かった、」
「アスラン、手…見せて。」
 笑みを見せてごまかそうとする君を遮って、微笑みを向ける。僕の言葉に躊躇する様子に苛立ちを感じた。ぱっ、とその手を取り、自分の鼻に近付けて軽く臭いを嗅ぐ。やはりする、青臭い独特の香りに目を細めると、君は少し顔を背けて身を引いた。それを、手を引っ張る事で押し留めながら片手で股間を撫でる。
「キ、キラ…!」
 ひゅっと君の喉が鳴って。それでも僕は、これからしてしまうであろう行動を止められ無かった。硬くなり、スラックスを押し上げる君の熱が、愛おしくて。
「アスラン…一人でシてたんだ。」
「っ…」
「どうして…言ってくれなかったの。」
「キ、ラ…?」
 控え目に肩を押してくる君の肩をぐいぐいと押し返して、そのままの勢いで縺れるようにベッドに押し倒す。びくりと震える身体は、明らかに恐怖を示していたけど、僕は。
「アスラン、抱いてもいい?」
「キラ…」
 瞳を揺らす君の答えを待たずに、シャツに手を掛けてボタンを外した。白い胸が露になる所まで外してから、その肌に手の平を這わせる。しっとりと馴染むような気がするのは、どうしてなのかな。小刻みに震える肌を撫でて、胸の飾りを指先で押し潰した。次第に硬さを持って膨らむそこを、少し乱暴に摘み上げる。
「ッ、キラ‥キラ…キラ、キラ、キラ…」
 そこまでしてようやく、君が掠れて消えてしまいそうな程小さな声で、僕の名前をずっと呼んでいる事に気付いた。でも、目は固く閉じていて。ザフトの中で、暴行を受けていた時の事を思い出してしまっているのは、直ぐにわかった。それでも、今君を抱いているのは僕なんだと、自分に言い聞かせてる。
 僕は、また、間違うところだったね。
「…アスラン、ごめん、アスラン…目を開けて…」
「キ‥ラァ…」
 胸から手を離して、優しく、優しく、頬を包む。すると君は、震える目蓋を押し上げて、僕の首に腕を回した。そっと唇を啄み、こつりと額を合わせる。
「抱いても、いい?」
 瞳を覗き込みながら問い掛けると、君は少し安堵したように笑って、頷いてくれた。大好き。本当に、大好きだよ、アスラン。
「…じゃあ、脱がせるから…」
「あ、待っ…待ってくれ、キラ。自分で、脱ぐから…その…」
「‥わかった。僕も脱ぐね?」
 嬉しい時に見せる君の笑顔は、本当に綺麗。それから、その身体も。
 身に纏っていた物を全て脱いでから、再び君の身体を押し倒した。僕と違って、つい先程まで自分でシていた君の物はすでに勃ち上がっている。それを指摘すると、煩いと言われた。
 初めて、まじまじと見られる君の身体に、満足が行くまで視線を這わせる。肩に残る傷は父さんに、脇腹に残る傷はカガリに撃たれた時のものだったと思う。肩のそれに唇を寄せると、そっと身体を押されるのを感じた。見ると、恥じ入ったように視線を返してくる君。
 まだ、怖い?
「アスラン…今君に触ってるのは、僕だからね。」
 驚いた表情に変わる君の瞳をじっと見つめて、だから大丈夫、と言葉を続けた。きっと、それでわかったんだと思う。僕が、君の身に起こった事を知ったこと。ゆっくりと目を閉じて、首に腕を回してくる君の、目蓋の隙間から溢れ出した涙を舐め取る。片足を持ち上げて秘部に触れると、今さっきここにも触れていたのか、そこは少し口を開けていた。だから、一度君の自身に触れてそれを扱き、先走りで指を濡らす。君の身体をこんなにしたのは、あの人なの?
「んっ、あ…キラ…ッ。」
「…アスラン、好きだよ。大好き…」
 問い掛けることなんて出来なくて。安心させる為に、耐えず好きだと囁いた。



 君が受けた傷は癒えないけど、僕は、君をずっと愛してるから、だから、君もそう言って。涙が零れたら、僕がそれを拭うから。
「…愛してる。」
 隣で眠る君を強く、強く、抱き締めた。起きてしまっても知らない。今は、とにかく強く。
 肌と肌が触れ合う感触は、とても気持ちが良い。そして、服越しに伝わるものよりも、とても温かい。
 僕にとっての幸せは君だから、君の幸せは僕が守る。二度と、君を傷付けない。




END





後書き


初めてやってしまいました…朝チュンならぬ事後オチ…
何だか、このキラアスは全部書いてはいけないような気がしまして。
中途半端ですみません…っ
私的には満足なのですが…(汗)
妄想でカバーして下さい!妄想で…!

とりあえず、幸福論系はこれで終わりです。


まな
08.02.23