これは君のモノ 「…おい。」 無反応。 「……おい。」 やはり、無反応。 「っ、貴様ぁ!!聞こえているだろうが!無視をするな!」 「…あぁ、俺のことだったのか。」 びし、と指を突き付けて怒鳴ると、ようやく反応が返って来た。 だが、その表情はとてもふてぶてしい。 ライサが預けられて早一月半。 後数日もすれば、両親が迎えに来る事になっていた。 そして、母上と俺が居ない時にライサの世話をする為に、アスランもプラントに残っていたのだ。 今、アスランは片手でライサを胸に抱えたまま、片手で夕食の準備をしている。 母上ともすっかり打ち解け、本当にこの家の家族になったかように思えた。 だが…だが、だ。 ビーフシチューを弱火で煮込み、それをお玉で掻き交ぜながら振り返ったその表情は一体何だ。 ライサはアスランの肩に乗せていた頭をしきりに動かして、あうあうと何かを喋り、そちらに少し視線を向けた際の緑の瞳は優しいと言うのに。 「何だ、その顔は。」 「…俺の名前は、おい、じゃない。」 こちらに向けられた鋭い瞳と、その言葉にようやく理解して、思わず一つ息を吐いた。 その事にすらぴくりと跳ねる眉を見て、自然と眉間に皺を寄せてしまいながらそちらに近寄る。 背後から身体を重ねて片手をコンロのボタンに伸ばし、ピッと音を立てて火を止めた。 その音に瞳を大きくし、コンロを見た後再びこちらを見て何をするんだ、と不機嫌そうに言うアスランの唇を、そっと啄んでやる。 「…アスラン。」 「……何、だよ。」 ようやく、呼んだ事に対して反応を示したこいつの腰に背後から腕を回し、先程からずっと背中に隠していた包みを、ライサを抱き込むようにしながら目の前に差し出してやる。 ライサが、それに興味をそそられて手を伸ばしたが、俺は取られないように距離を離してそれを阻止した。 「…ホワイトデーだ。」 突然現れた包みに、驚いたような顔をしたまま何も言わないアスランに痺れを切らし、小さく囁くように言ってやる。 その言葉に、包みが現れた理由を理解したのか、頬を赤らめながらお玉から手を離し、アスランはそれを手に取った。 「ぁー…っ。」 「すまない、ライサ。これは俺のなんだ。」 照れ臭そうに、だが、嬉しそうにアスランが言った途端、ライサの顔がくしゃりと歪む。 これは泣くな、と思いすぐにライサをアスランから取り上げて、自分の腕に抱えてよしよしとあやした。 「貴様には、今度違う物をやる。わかったか?」 「ぅ…」 「わかったな?」 未だ渋る様子に、目に力を込めて念押しをすると、ライサはこくりと小さく頷いた。 よし、と呟いて彼女の頭を撫でる俺を見るアスランの瞳は少し、呆れたように見えたが関係無い。 一ヶ月前のホットチョコレートの礼が、少し高く付いた事もまぁ…いいだろう。 「開けても、かまわないか?」 「あぁ。」 ダイニングテーブルがある方へ移動しながらの問い掛けに頷いて、ライサの背中を緩いリズムで叩く。 ぐずるのを止めて大人しくなった様子を見遣りつつ、包装紙が破かれて中から現れた箱の中身を、アスランが確認した頃に再び口を開いた。 「…今度、それに飾る写真を撮るぞ。」 今、貴様にとって一番大事なのは俺だという事を、忘れるなと言う思いを込めて、それを、写真立てをやった俺は、中々にキザなのかも知れない。 END |